年末調整と決算対策のポイント 税理士 橋本清治  PDF

給与支払者にとって1年の締めくくりとなる年末調整。橋本清治税理士にポイントを解説いただいた。

年末調整とは
 給与の支払者は、毎月の給与や賞与を支払う際に所定の「源泉徴収税額表」によって所得税を源泉徴収しなければならない。その源泉徴収した税額の年間合計額は、給与を受け取った人の年間給与総額に対する所得税額(年税額)と一致しないのが通常である。
 その主な理由は、①源泉徴収税額表が年間を通して毎月の給与の額に変動がないものとして作られており、実際には年の中途で給与の額が改定されている場合があること②年の中途で扶養親族等に異動があっても、異動後の支払い分から源泉徴収税額を修正するだけで、さかのぼって各月の源泉徴収税額が修正されないこと③配偶者特別控除や生命保険料・地震保険料の控除など年末調整の際に控除されるものがあることなどが挙げられる。
 この不一致を精算するために、年間の給与総額が確定する年末にその年の所得税額(年税額)を正しく計算し、これまでに徴収した税額との差額を徴収又は還付することが必要となる。この精算手続きを「年末調整」と呼んでいる。

年末調整の事務手続き
① 源泉徴収簿に記載した毎月の給与や賞与の支払額、給与・賞与から控除した社会保険料、源泉徴収した税額の年間合計額を計算する。年の中途で採用した従業員の場合には、前職(1月から退職月まで)の源泉徴収票に記載された給与等の金額を合算する。
② ①で集計した年間の給与の総額から「給与所得控除後の給与等の額」を求め、「所得控除」の合計額を差引し、「課税所得金額」を算出する。「課税所得金額」に税率を乗じて税額を求め、住宅借入金等特別控除を控除して年調所得税額を算出する。
③ ②で求めた年調所得税額に102.1%乗じて、復興特別所得税を含む年調年税額を算出する(100円未満の端数は切り捨て)。
④ ③で求めた年調年税額と従業員から源泉徴収した年間の税額との差額を本人還付(不足の場合は徴収)する。
⑤ 従業員から源泉徴収した税額(未納付分)に年末調整の過不足税額の合計額を加えて、翌年の1月10日(納期の特例が提出されている場合は20日)までに納付しなければならない。

年末調整事務の留意点
1. 2025年の年末調整における主な改正事項
① 基礎控除の見直し
 基礎控除額は、合計所得金額に応じて、次のように改正された。
 132万円以下は95万円、132万円超336万円以下は88万円、336万円超489万円以下は68万円、489万円超655万円は63万円、655万円超2,350万円以下は58万円
② 給与所得控除の見直し
 給与収入190万円以下の場合の給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられた。
③ 扶養親族等の所得要件の改正
 扶養控除の対象となる扶養親族(扶養親族・同一生計配偶者・ひとり親の生計を一にする子)については58万円以下、勤労学生については85万円以下に引き上げられ、所得要件が改正された。
④ 特定親族特別控除の創設
 所得者が生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族を有する場合に受けられる特定親族特別控除が創設され、その親族の合計所得金額に応じて控除(最高63万円)される。
⑤ 通勤手当の非課税限度額の改正
 2025年人事院勧告(25年8月7日)が行われ、25年4月1日以降の自動車などの交通用具使用者に対する通勤手当の額の引き上げが勧告された。これを受け、通勤手当に係る所得税の非課税限度額の改正が行われ、年末調整での対応が必要となる場合がある。

2.扶養控除等申告書など
 税務署から送付されている扶養控除等申告書などに「QRコード」が付され、スマホ等でかざすと国税庁のホームページの記載例を見ることができる。
① 扶養控除等(異動)申告書について
 「令和7年分扶養控除等申告書」の提出がない場合(乙欄適用)には、年末調整することはできない。25年中に扶養親族等の異動があった場合や「ひとり親(35万円控除」・「寡婦(27万円控除)」に該当する場合は「扶養控除等申告書」に変更の内容を記入しなければならない。
 源泉控除対象配偶者(合計所得金額が900万円以下の所得者と生計を一にする配偶者で、合計所得金額が95万円以下の者)がある場合には、「扶養控除等申告書」に記入する必要がある。
 16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)については、扶養控除を受けることはできないが、住民税に関する事項の欄には、記入する必要がある。
 19歳以上23歳未満の扶養親族については、特定扶養親族の欄に✓を付ける(扶養控除の額63万円)。所得者の同一生計配偶者又は扶養親族が障害者である場合には、障害者の欄に✓を付ける(障害者控除の額:一般障害者27万円・特別障害者40万円・同居特別障害者75万円)。

(注)個人番号(マイナンバー)について
 マイナンバー制度の導入に伴って、2016年1月1日以降に受理する「扶養控除等申告書」に個人番号を記載することが義務付けられた。源泉徴収票を市区町村に提出する際には、個人番号を記載する必要がある。

② 基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書について
ア.基礎控除申告書
 基礎控除の適用を受ける場合は「基礎控除申告書」に本年中の合計所得金額の見積額による基礎控除の額を記入し、提出しなければならない。
イ.配偶者控除等特別控除申告書
 合計所得金額1,000万円以下の所得者が配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受ける場合は、「配偶者控除等申告書」に配偶者の合計所得金額の見積額による控除額を記入し、提出しなければならない。
ウ.特定親族特別控除申告書
 特定親族特別控除の適用を受ける場合は、「特定親族特別控除申告書」に合計所得金額58万円超123万円以下の特定親族(平成15年1月2日から平成19年1月1日までの間に生まれた人)の氏名・生年月日・合計所得金額の見積額による控除額などを記入し、提出しなければならない。
エ.所得金額調整控除申告書
 所得金額調整控除の適用を受ける場合には、「要件」欄の該当する項目に✓を付け、扶養親族等の氏名を記入し、提出しなければならない。

(注)所得金額調整控除
 給与の収入金額が850万円を超える所得者で、次の要件を満たすときは、給与収入金額(1,000万円超は1,000万円)から850万円を控除した金額の10%を給与所得の金額から控除される。なお、共働きの場合は夫婦双方で適用を受けることができる。
*一定の要件(いずれかに該当)
〇自身が特別障害者。
〇同一生計配偶者(事業専従者を除く)または扶養親族が特別障害者。
〇23歳未満の扶養親族(所得金額の見積額58万円以下)を有している。

③ 保険料控除申告書について
 生命保険料控除や地震保険料控除などの控除の適用を受ける場合は、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出しなければならない。
ア.国民年金保険料・国民年金基金掛金
 国民年金保険料及び国民年金基金の掛金について社会保険料控除の適用を受ける場合は、「保険料控除申告書」に支払額を記入するとともに証明書を添付しなければならない。2年分の国民年金保険料を前納したときは、納めた年に一括控除する方法と各年において控除する方法を選択適用することができる。
イ.後期高齢者医療制度の保険料
 従業員が生計を一にする親族の後期高齢者医療制度の保険料を口座振替等により支払った場合は、社会保険料控除の適用を受けることができる。なお、後期高齢者医療制度の保険料が年金から天引きされている場合には、年金受給者が社会保険料控除の適用を受けることになる。
ウ.生命保険料
 2012年分以後、一般生命保険料控除(旧:最高5万円、新:最高4万円)と個人年金保険料控除(旧:最高5万円、新:最高4万円)、介護医療保険料控除(2012年1月1日以後締結等したもの:最高4万円)との合計適用限度額が12万円 とされた。なお、新旧両方の保険契約を締結している場合は、新旧の保険契約ごとに区分計算し、納税者の有利な方を選択することができる。
エ.地震保険料
 地震保険料を支払った場合や一定の旧長期損害保険料を支払った場合は地震保険料控除の適用を受けることができる(最高5万円、旧長期損害保険料のみは最高1万5千円)。
オ.確定拠出年金
 企業型年金加入者掛金又は個人型年金(iDeCo)加入者掛金は小規模企業共済等掛金控除の適用を受けることができる。本人が直接支払ったものは「保険料控除申告書」に支払額を記入するとともに証明書を添付しなければならない。
④ 調書方式による住宅借入金等の特別控除
 2025年分の年末調整から、調書方式(国税当局から従業員の方に住宅借入金等の年末残高情報を提供する方式)による住宅借入金等の特別控除の適用が受けられる。

3. 2026年の留意事項
① 給与所得者の扶養控除等申告書の変更
 「令和8年分給与所得者の扶養控除等申告書」の様式が変更された。
 所得者の控除対象扶養親族のうち年齢19歳以上23歳未満(平成16年1月2日から平成20年1月1日までの間に生まれた人)に該当する者がいるときは特定扶養親族の欄に✓を付ける。また、特定親族(年齢19歳以上23歳未満の親族で令和8年中の所得の見積額が58万円超123万円以下)に該当する者がいるときは特定親族の欄に✓を付ける。
② 源泉徴収税額表
 基礎控除の見直しなどにより、2026年分の「源泉徴収税額表」が変更されているので、留意する必要がある。
決算対策と消費税(1,000万円超個人事業者)
決算対策と消費税の留意点は次の通りである。
1.決算
 所得金額は、収入金額から必要経費を差し引きし算出されるため、本年分の収入金額になるものや未払経費・減価償却費など本年分の必要経費になるものを計上する必要がある。この手続きを「決算整理」という。
(1)収入金額
 年内に保険診療・検診・予防接種等を行ったもので、年末までに入金していないものは、未収入金に計上し収入金額に計上する必要がある。
(2)必要経費
① 薬品等の棚卸
 医薬品や診療材料等は、収入の原価として実際に使用したものが必要経費となる。棚卸の金額は、年末に残っている薬品等の数量(実際に調べる)にその年の最終の仕入単価(納入価)を乗じて計算する(消費税分はプラスする)。
② 少額減価償却資産の必要経費算入
 青色申告者が1個・1組30万円未満(消費税込)の器具備品等を取得し事業に使用した場合には、取得価額の合計額が300万円に達するまでの金額(25年1月1日以降に開業された方は取得価額の合計額300万円を按分計算)を取得した年の必要経費にすることができる。確定申告書に取得価額に関する明細書を添付する必要がある。

(注)少額減価償却資産を取得した年に必要経費に算入した場合でも償却資産税の対象資産となるので留意する必要がある。

③ 減価償却制度について
 減価償却資産(建物・医療機械など)について07年4月1日以後に取得したものと07年3月31日以前に取得したものに区分し、それぞれの償却方法で減価償却し、必要経費に計上する。07年3月31日以前に取得した減価償却資産について償却費の累積額が取得価額の95%に達している場合には、取得価額の5%から1円を控除した額について、5年間均等償却し、必要経費に計上する。
 所有権移転外リース契約ついては、リース資産を売買により取得したものとされるため、リース料総額(取得価額)をリース期間定額法により減価償却し、必要経費に計上する。

(注)16年4月1日以後に取得する建物附属設備・構築物の償却方法は定額法とされた。テナントの内装工事等は償却資産税の対象となるので留意する必要がある。

④ 特別償却の必要経費算入等
 青色申告者が適用することができる主な特別償却等は次の通りである。その選択にあたっては、その可否を検討し、特別償却等を適用する必要がある。
「医療用機器等(新品)の特別償却(措置法12条の2)」
 2027年3月31日までに厚生労働大臣が指定した取得価額500万円以上(消費税込)の医療用機器を取得(所有権移転外リース契約を除く)し、事業の用に供した場合には、普通償却費とは別に取得価額の12%を特別償却することができる。また、一定の勤務時間短縮用設備等や構想適合病院用建物等を取得し事業の用に供した場合の特別償却制度が設けられている(19年4月1日以降取得分)。
「中小企業者の機械等(新品)の特別償却又は税額控除(措置法10条の3)」
 取得価額70万円以上(消費税込)の一定のソフトウエアを取得し、事業の用に供した場合には、普通償却費とは別に取得価額の30%の特別償却か取得価額の7%の税額控除のいずれか選択適用することができる。
 なお、所有権移転外リース契約についてはリース料総額が上記要件を満たせば、税額控除の適用を受けることができる。
「給与等の支給額が増加した場合の税額控除(措置法10の5の4)」
 25年分について一定の要件を満たすときは、雇用者給与等支給増加額の15%(教育訓練費増加要件を満たす場合は25%)の税額控除の適用を受けることができる。

2.消費税
 2023年分の課税売上(検診や予防接種、自費診療等)(注1)1,000万円超の事業者または24年分の特定期間(注2)の課税売上1,000万円超の事業者は、25年分の消費税課税事業者となる。
 25年分から新たに課税事業者になられた方で、簡易課税制度を選択した場合には、簡易課税制度を2年間継続する必要がある。26年分の消費税申告分から「本則課税」から「簡易課税」、「簡易課税」から「本則課税」に変更する場合や11年税法改正(注2)の適用により26年分から課税事業者になられる方で、「簡易課税制度」を選択する場合には、その可否を検討し、25年12月31日までに税務署に所定の届出書を提出する必要がある。

(注1)事業資産の譲渡や他の事業、不動産収入(地代収入、居住用の賃貸収入は除く)なども自費診療等に合算するので注意が必要である。
(注2)免税事業者の判定(2011年消費税法改正)
 基準期間(前々年)の課税売上が1,000万円以下、前年の1月から6月まで(特定期間)の課税売上が1,000万円以下(売上に代えてその期間の給与支給額でもよい)のいずれにも該当する者が免税事業者となる。
*高額特定資産(税抜1,000万円以上)の取得等した場合
 課税事業者を選択及び簡易課税制度を選択していない事業者が、16年4月1日以降、高額特定資産を取得等した場合は、取得等した日の属する課税期間の翌課税期間から2年間は、事業者免税点制度及び簡易課税制度を適用されないこととされた。
*適格請求書(インボイス)制度
 23年10月1日から、消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が開始され、適格請求書(インボイス)を発行できるのは「適格請求書発行事業者」に限られる。この「適格請求書発行事業者」になるためには、登録申請書を提出し、登録を受ける必要がある。登録事業者になると登録を取消しするまでは消費税の課税事業者となるので留意する必要がある。
*2割特例制度
 免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になられた方が対象となる。適用できる期間は、23年10月1日から26年9月30日までの日の属する各課税期間となる。2割特例の適用に当たっては、事前の届出は必要なく、消費税の申告時に消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記することで適用を受けることができる。

3.電子帳簿保存
 電子取引・請求書等がメール配信される場合や事業者のホームページに保存される場合があるので、電子帳簿等の取扱いに留意する必要がある。

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