協会は「医療制度の危機を考える―大切な制度を壊さないために」をテーマに市民連続学習会・第1回「地域医療の危機」を10月19日に佛教大学二条キャンパスで開催。41人が参加した。「今、地域医療をめぐって起こっていること」と題して、佛教大学准教授の長友薫輝氏が講演。パネルディスカッションでは(医)京都翔医会西京都病院理事長兼院長の飯田洋也氏、(医)そがべ医院院長の曽我部俊介氏、(医)成仁会吉河医院院長の吉河正人氏から地域の実態を報告後、意見交換した。医療機関経営の深刻な現状を共有し、安心して地域で暮らすには医療制度の充実が必要と語り合った。進行は吉村陽理事、開会あいさつは辻俊明理事。
講演
医療は供給が需要を決定
長友薫輝氏
長友氏は「医療は供給が需要を決定する」として、住民はアクセスしやすい医療機関があってこそ受診でき、なければ受診は抑制され医療ニーズは潜在化すると言及。医療政策の動向を踏まえ、人口減・労働力減を理由に医療を縮小していいのかと問題提起した。
自治体病院の9割、大学病院の7割が赤字なのは物価や人件費高騰だけではなく、医療政策の問題と指摘。主因は受診抑制、供給抑制、平均在院日数短縮、医学部の定員抑制などの手法で公的医療費を抑制してきたことだと強調。医療から介護に給付を付け替える「介護保険」、病床をコントロールする「地域医療構想」、高齢者を地域で受け止める「地域包括ケアシステム」など、医療から介護、介護から地域へと、医療が必要な患者を公的負担から無償の代替力に移行させてきた政策を批判した。
国民医療費に占める公的負担にも言及した。23年の国民医療費48兆円の内、国庫は25%に過ぎず、被保険者保険料28%と患者負担12%を合わせて40%が国民の負担と強調。社会保障全般でも最も負担しているのは被保険者で、本来税で負担すべき分まで社会保険料で賄ってきた結果と指摘した。
インターネットでは自分の志向と同じような情報にしか触れなくなるフィルターバブルで分断や対立が生まれる危険性があり、分断を助長する政策や社会の風潮にも警鐘を鳴らした。
経営努力にも限界 飯田洋也氏 京都市の病院から
全国の病院の7割が赤字となっており、経営が非常に厳しい。2025年の上半期だけで医療機関の倒産件数は35件に達し、深刻なペースだ。背景にはコロナ関連の補助金や無利息融資の終了と返済のための資金繰りの悪化がある。光熱費、材料費、医療機器、給食費などあらゆるコストが上昇しているにもかかわらず診療報酬で補填できていない。看護師の給与は2012年からの10年間ほとんど上昇していない。慢性的な看護師不足により紹介会社を利用するが、高額な手数料が病院経営に響く。保険診療は公定価格のため病院独自の経営努力にも限界がある。
安上がりの医療に懸念 曽我部俊介氏 京都市の診療所から
高齢者が増加すると医療費が増加するのは当然で、国の予算に限りがあるのは理解している。しかし、国が示した医療費4兆円削減はあまりに唐突で、安上がりの医療になりかねない。政治の動向と医療が直面している実情には大きな溝がある。診療報酬は減らされているが、職員の給料を下げるわけにはいかない。物品の費用も値上がり、これまでと同じように診療していても収入は1割減で、費用は1割増。自分たちの給料を削って経営を維持せざるを得ない。
複数科の症状を診療 吉河正人氏 福知山市の診療所から
内科と整形外科(ペインクリニック)、麻酔科、小児科を標榜し、医療過疎地域の雑貨屋的な役割を担っている。2006年の1市3町の合併以降の20年間で人口が1割減少。30数年診療を続けているが、レセプト件数は最盛期から半分程だ。当院では1人の患者に血圧測定、整形外科的な処置や必要に応じて神経ブロックまで行う。都市部であれば複数の医療機関を受診する内容でも、当院では全て初診で対応する。そのため患者1人当たりの診療時間は長くなるが、収入は減少している。
看護師不足は北部でも深刻だ。地元で養成しなければ地元で就職してもらえないため、福知山医師会として准看護学校を運営しているが定員割れが続き、厳しい。
意見交換 現場の声を上げ続けたい
――医療機関を削減する政策は分業できるメリットと受診できなくなるデメリットがある。どう評価するか。
長友 分業できるほど供給体制は潤沢ではない。再編とはトーナメント方式で勝者は一つの医療機関で、周辺の医療機関は統合や縮小を迫られる。地域によっては住み続けること自体が難しくなる。
吉河 医療機関を集約できるのは都市部だ。過疎地ではこれ以上減らさないための方策が必要。
飯田 複数病院に対して1人の当直医が兼務しようという政策があるが、患者に急変が起きた際の対応は不可能。車で15分かかっては間に合わない。
――1人の当直医が複数医療機関を診るのはかなり無理筋。
飯田 産科、小児科領域では医師の成り手が少ない。カスハラの問題もあり、やりがいよりもリスクが高いからではないか。国がしっかり守る仕組みが必要。これだけ頑張って経営しても締め付けられることに納得できない。声を上げ理解を広めていきたい。
曽我部 国はコロナ禍では医療従事者に敬意を表すると言っていたが、今は診療所がもうけ過ぎと言う。マイナ保険証を巡っても大きな混乱がある。個人でできることには限りがあるが、日々の診療以外でもやれることを考え続けたい。
吉河 コロナ禍では全国で搬送困難の問題があったが、福知山市では搬送困難事例はゼロだった。現場の声を地道に上げ続けたい。







