来るべき相続に備えて 生前贈与や不動産活用を解説 相続・贈与セミナー  PDF

 保険医協会は9月27日に相続・贈与セミナーを三井住友信託銀行京都支店セミナー室にて開催。講師は、たかやまあゆみ税理士事務所の髙山亜由美氏。京都府保険医協会、京都府歯科保険医協会、滋賀県保険医協会の共催で実施した。参加者は21人。

 セミナーでは親の相続・配偶者の相続・自分の相続をテーマに、まず相続の基本を解説。髙山氏は「相続が発生した時点から10カ月以内に相続税の申告を行う必要がある」とし、「『亡くなった時の財産』と『基礎控除額』(3000万円+600万円×法定相続人の数)を比較し、財産が基礎控除額を超えるかを確認。相続税対策は財産ごと(預金・不動産・有価証券など)に分けて考える必要がある」と述べた。
 また、配偶者は相続した財産額が1億6000万円以内、または法定相続分相当額までであれば相続税は非課税となる。死亡保険金等の非課税枠は500万円×法定相続人の人数で計算されるため、髙山氏は「少なくとも死亡保険金の受け取りを子に指定すれば非課税枠が増える」と述べた。

生前贈与に新制度

 次に、生前贈与について解説(下表)。基本は暦年課税で、相続人に限らず誰に対しても贈与は可能となり、年間110万円までは贈与税がかからない。しかし、2024年1月より相続開始前の一定期間に行われた生前贈与に対し、相続財産に加算して相続税額を計算する生前贈与加算の加算期間が段階的に3年から7年へ延長されている。
 髙山氏は加算対象者は財産を相続した人となり、財産を相続しなかった相続人や、孫・子どもの配偶者など(遺言等で財産を取得しない場合に限る)は加算対象とはならないため、贈与する対象を見極める必要があるとした。
 また、24年1月に新設された相続時精算課税の制度も説明。「相続時精算課税は届出制で一度選ぶと暦年課税の贈与には戻せないため、どちらが有利か慎重に選ぶ必要がある」と述べた。

不動産の相続時評価
正しく知って活用を

 続いて、不動産の評価について解説。「評価額で一番大きいのは預金、次に不動産、続いて賃貸不動産となる」とし、「不動産の場合、建物は固定資産税の評価額、土地は路線価×面積で、相続時の評価額と売買評価額は異なる」と強調した。また、不動産は自用であれば土地・建物の評価額は100%となるが、一部でも賃貸とすると建物は評価額の70%、土地は80%前後となると説明。一定の適用要件を満たした場合、土地を通常より低く評価することができる小規模宅地等の特例も解説した。
 備えるべき「三つの相続」では、親の相続、配偶者の相続、自分の相続について、これまで顧客等より相談されてきた事例を紹介。髙山氏は、「親や配偶者、子どもとしっかり相続について話ができるよう環境を整えることが大切」と締めくくった。

(表) 暦年課税と相続時精算課税の違い
暦年課税 相続時精算課税
贈与者(贈与する人) 制限なし 贈与をした年の1月1日において60歳以上である父母または祖父母
受贈者(贈与を受ける人) 制限なし 贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の推定相続人および孫
非課税枠 贈与を受ける人ごとに基礎控除年間110万円 贈与を受ける人ごとに基礎控除年間110万円、贈与する人ごとに特別控除2,500万円
非課税限度額を超えた場合(課税される額) 10~55% 一律20%
贈与税の申告 110万円を超えたら申告 110万円を超えたら申告。ただし、初年度は相続時精算課税選択届出書を提出
贈与者が死亡した場合の相続税 原則として相続財産に加算する必要はない。ただし、相続開始前7年(ただし3年よりも前の4年間については合計100万円まで加算されない)に受けた贈与財産は相続財産に加算する。 この制度を適用した贈与財産は全て、贈与時の価格で相続財産に加算をする。ただし、毎年110万円までは加算しない。
選択方法 原則は暦年贈与 変更したい年に届出書を提出。いったん選択すると、暦年贈与に戻せない。
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採血時の神経損傷疑いの診断名や「前医批判」の影響を事例で解説 事業利用や活動協力も呼びかけ 勤務医のための講習会
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 勤務医と病院経営に資する情報提供と保険医協会の事業紹介を目的に、10月29日、勤務医のための講習会をウェブ開催。医師8人が参加した。

 上田和茂理事が進行。曽我部俊介理事より、協会活動の柱4点①医療制度・診療報酬改善に向けた活動②医師とご家族の生活を守る共済制度③保険診療のサポート(講習会等の開催、保険請求の照会対応や情報提供・書籍発行)④医業経営のサポート(医療安全講習会等の開催)―を紹介。事業の利用とともに国民皆保険制度と地域医療を守る活動への協力を呼びかけた。
 「勤務医の先生気を付けてください!~知らない間に医事紛争拡大のきっかけを作ってますよ!」と題して名倉良一監事(医療事故案件調査委員)は、①医師賠償責任保険の運用・紛争解決の流れ②前医批判と採血による神経損傷が疑われる患者の「診断名」についての相談事例―を解説した。
 協会は全国に先駆けて1968年に医師賠償責任保険を導入し、取扱件数は2千件以上、解決率97・4%(24年5月末時点)。損害賠償が生じる3条件「①過失がある②損害が発生している③過失と損害の間に因果関係がある」を挙げ、医療事故が発生し医療機関側に過失があったとしても、イコール賠償責任が生じる訳ではないと説明した。
 「前医批判」が原因で医事紛争になった事例等を紹介。後医の発言は悪意がなく無意識としても、患者は前医に不信感を抱き、責任追及や賠償請求につながると指摘。根拠のない前医批判は患者にも有害で医事紛争のきっかけとなり、拡大させる可能性があることを認識してほしいと述べた。
 採血による神経損傷が疑われる患者の診断書(名)について、「患者の訴えのみ」で安易に正中神経損傷や複合性局所疼痛症候群(CRPS)と診断せず、「採血後疼痛」などの症状名にとどめて経過観察し、できるだけ患者の不安を取り除くことが重要と言及。紛争拡大防止のため、診断時には十分な配慮が必要と注意喚起した。

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