主張 より良い医療制度の構築に 市民の理解と後押しが不可欠  PDF

 近年、物価上昇や人件費の増加が顕著にもかかわらず、医療機関に対する診療報酬は長期にわたり抑制されたまま。さらに深刻な人手不足も加わり、医療機関の経営は極めて厳しい状況に置かれている。このままでは地域から病院や診療所がなくなるかもしれない。それは一般市民にとっても深刻な問題である。そのような状況を踏まえ、10月19日、「医療制度の危機を考える」と題して市民学習会を開催した。学習会は連続市民学習会の第1回として開催され、市民が参加しやすいよう参加費は無料である。
 学習会は、まず佛教大学社会福祉学部の長友薫輝准教授による基調報告から始まった。長友氏は、医療経済学や現行の医療政策、医療機関が直面する経営上の困難についてひと通り解説し、加えて、尊厳死の法制化の是非や政党別の医療施策といった高度な政策論にも踏み込んだ。この報告で特に印象的なのは、OTC類似薬を保険適用外とすることで、実質的に保険制度が機能しないケースが増えるのではないかという懸念が示された点である。我々も深くこの懸念に共鳴しており、かつ市民の注目度も高い。
 その後、病院長や開業医が登壇し、物価高や職員の人件費高騰により深刻なレベルで経営が悪化している現状が生々しく語られた。
 本学習会は市民が研究者や医師の専門的知識に直接触れられる貴重な機会を提供した。また社会福祉学の研究者も、我々保険医協会と同じ危機意識を共有していることが明らかになった。この事実は、私たちの活動に少なからず勇気を与えてくれる。
 より良い医療制度を構築するには、専門家や医療従事者だけでなく、市民全体の議論への参加が不可欠である。また政策を実現し定着させるには、市民の強い理解と後押しが絶対に必要である。保険医協会は、今後も市民との継続的な対話を重視しつつ、より良い医療制度の構築に向けて全力を尽くす方針である。

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