シリーズ環境問題を考える 172  PDF

気候変動と健康 その1

 今年の夏は暑かった。近畿の梅雨入りが5月17日、梅雨明けが6月27日で、京都市は最高気温35℃以上の猛暑日が6月以来9月15日までに60日あった。観測史上最多とのことである。兵庫県丹波市では7月30日、日本の観測史上最高となる41・2℃を記録した。日本だけではない、欧州の12都市で6月23日〜7月2日の10日間で約2300人が熱波で死亡したと推計され、このうち約65%にあたる1500人が気候変動による要因と推測された。スペインのエル・グラナドという町では6月28日に最高気温46℃を記録している。気象庁は6〜8月の全国の平均気温は平年より2・36℃高く、統計のある1898年以後で最も高かったと発表している。偏西風の蛇行とはいえ、この夏の高温は確かに異常だった。
 気候変動がもたらす健康への影響は以前から指摘されており、猛暑による熱波、熱中症だけでなく感染症の増加や慢性疾患に及ぼす影響は脅威となっている。とりわけ注意が必要なのは、子どもや妊婦、慢性疾患患者、高齢者である。今年の猛暑の中、5月1日から9月7日まで熱中症による救急搬送は、全国で9万3783件、京都府2220件(京都市1月1日〜9月11日995件)である。熱中症の年齢区分では高齢者約68%、成人約35%、子ども約7%で、発生場所は住居38・6%、仕事場13・4%、学校3・5%、公衆(屋内)8・5%、公衆(屋外)12・0%、道路19・8%、その他約5・8%となっている。6〜8月までの熱中症搬送は過去2番目の多さと総務省消防庁は発表している。また、研究者らで作る「極端気象アトリビューションセンター(WAC)」は各地での猛暑は「地球温暖化の影響がなければ起こらなかった」としている。
 高温下で健康被害が増える仕組みは「脱水」と「炎症」であり、脱水が起こると細胞は正常に働きにくくなる。また暑くなると酸化ストレスが増えて炎症が起こる。子どもに多い腸重積症で5歳以下は、日平均気温が極めて高い時の入院リスクが約4割上昇する。暑さで、アナフラキシーショックやアレルギー、気管支喘息も悪化・増加する。妊婦の常位胎盤剥離のリスクも増加、緊急入院が必要となる(藤原武雄・東京科学大学教授)。2024年6月、日本プライマリ・ケア連合学会は「プライマリ・ケアにおける気候非常事態宣言(通称:浜松宣言)」を発表し、気候変動がもたらす健康への影響と気候変動対策の必要性、気候変動の影響に適応したプライマリ・ヘルス・ケアの整備への取り組み、プラネタリーヘルス(地球とその生態系の健康と、人間の健康および人間社会の健全性を統合的に捉える超学際的アプローチ)の実現を目指すとしている。気候変動により熱波、豪雨、干ばつ、山火事など気象災害が増え、インフラ等への被害が拡大する中、農作物の減少、水系への影響、食品媒介性感染症・節足動物媒介感染症の増加、メンタルヘルス・慢性疾患の増悪などが指摘されている。
 産業革命以後、化石燃料の使用により生じたCO2の蓄積が地球温暖化を招き、地球環境システムに負荷をかけたために今日の気候変動を招いた。地球温暖化問題を自分事として捉え、医師の立場からも、ライフスタイルの改善(省エネ、消費・廃棄物の減少等)、化石燃料の削減、再生可能エネルギーへの転換(住民の合意、住民立などを含めた)等を推し進めることが重要である。環境問題に興味がある先生、ご連絡をお待ちいたします。
(環境対策委員 山本 昭郎)

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