わたしのすすめる my favorite Book 日本社会をリビルドする 人間が大切にされる平和な社会へ  PDF

著 岡田知弘・川口 創・池内秀樹
かもがわ出版 2025年8月
2,640円(税込)

より豊かで意味ある人生を送るための指南書
疲弊した地域が息を吹き返すためのヒントも

 バブル崩壊以降、日本は長期的な経済停滞に陥り、デフレ・低成長・賃金停滞が続いた。さらに少子高齢化が重なり、その結果、国際競争力は低下。こうした状況が重なり、失われた30年と称される時代を迎えることになった。
 特に、1997年以降の構造改革で富は経営者や株主に集中し、賃金の格差は拡大した。著者は賃金停滞と格差拡大の原因を多角的な視点から分析し、「経済民主主義」という解決策を提示している。
 著者が提唱する「経済民主主義」とは企業の社員が自ら経営に参加し、地域の人々に感謝される経営を目指すというものである。これは単なる理想論ではなく、社員の主体的な経営参加がパフォーマンス向上につながった具体的な事例も列挙されている。これまでの日本社会を支配してきたトップダウン型から、地域や現場の声を尊重するボトムアップ型への転換である。
 地域の中小企業と住民の役割において本書が重要視するのは単に経済を活性化するだけではなく、人間が大切にされる社会を再構築することである。
 一例として著者は、京都府与謝野町の取り組みを紹介している。ここでは福祉と地域産業が連携することで、障がいのある人々の賃金を向上させることに成功した。
 これは、社会課題を解決しつつ地域経済を循環させるという「経済民主主義」の理想型である。当然のことながら経済学、幸福論は実にさまざまであり、したがって本書における「経済民主主義」が全ての問題を解決するわけではないが、少なくともこのモデルは全国の疲弊した地域が息を吹き返すためのヒントになるだろう。
 人として幸福に生きられる社会、すなわち人間が大切にされる社会を構築するのは都市部の大資本ではなく、地域の人々の事情を熟知している地元の中小企業や地域住民自身である。これが本書で貫かれている理念である。この意味において、この書は単なる経済書ではなく、私たちがより豊かで意味ある人生を送るための指南書でもある。
辻 俊明(西陣)

ページの先頭へ