生き残れる組織とは ―― 今後の保険医協会を考える ―― 諦めずに対峙し続ける  PDF

パネリスト

矢野裕典〈ルビ/やのゆうすけ〉氏
洛和会ヘルスケアシステム理事長
1981年京都生まれ。医師免許を持ちながら介護職の経験を経て、医療経営の道へ。2022年、40歳で洛和会ヘルスケアシステム理事長に就任。「やさしい社会を創造する」を目標に、伝統を継承しつつ新たな挑戦を続けている。SNSで経営トップ自らが発信する広報活動が評価され、病院広報アワード2024経営者部門大賞を受賞。2024年9月、自身の半生と街づくりへの思いを綴った『地域医療と街づくり 京都発!「日本の医療が変わる」経営哲学 元ひきこもり理事長の病院経営術』を出版。

守上佳樹〈ルビ/もりかみよしき〉氏
医療法人双樹会 桂西口整形外科クリニック院長
1980年兵庫生まれ。広島大学学校教育学部卒業後、医学部へ進学。2008年より京都大学医学部附属病院、三菱京都病院(総合内科医)勤務を経て、2017年医療法人双樹会よしき往診クリニック院長に就任。2021年2月、一般社団法人KISA2隊を設立(OYAKATA)。
2025年4月より現職。風に立つライオンオブザイヤー2023、2025TIME紙「TIME
100 THE WORLD’S MOST INFLUENTIAL PEOPLE100」に掲載。

聞き手:曽我部 俊介 理事

 曽我部俊介理事 まず本日総会に出席されたご感想を聞かせて下さい。
 守上佳樹医師 これだけ人の集まる会は素晴らしいと思います。活発に議論するのは日本ではあまりないですよね。
 矢野裕典医師 いろいろな意見を出し合うのが良いと思います。命を守るという医療の根源は不変です。そういうことを発信し、伝統を生かしながら組織も発展していくことが重要ですね。
 曽我部 組織運営は多くの人の協力が不可欠です。組織が生き残っていくために必要なことは何でしょうか。
 守上 私は医学部に入る前に広島大学教育学部に入学し、大学祭の実行委員長を担当しました。年間2000万円の予算を運用する組織でとても大変でした。医学部入学後はサッカー部に入部しました。週5日毎日練習、飲み会です。その二つの経験が今に生きています。
 矢野 変化し続けること。そのために若い人に任せることだと思います。当法人もまだまだ道半ばですが、自戒の念も込めてそう考えます。
第78回定期総会 シンポジウム講演録(7月27日開催)
 役員の高齢化や若い医師の組織離れなど、組織運営は難しい時代を迎えている。組織の活動を継続・発展させるための打開策は何か―組織のトップに立つ2人に曽我部俊介理事が聞いた。
 ※2021年2月、守上佳樹医師がコロナ専用往診チームを京都府と連携する形で立ち上げ、京都市を中心とした約150万人を対象にコロナ自宅療養者への往診を開始した。その後全国で組織され、北は北海道、南は奄美大島まで17地域で展開している。

何もしなければ衰退する

 曽我部 協会は保険医のために素晴らしい活動をしていますが、周知が足りないのか仲間が増えません。守上先生がKISA2隊※で周囲を巻き込む際に工夫されたことは何ですか。
 守上 事業を始めてその事業が良かったらそこに光が当たり、若い人が面白いと感じてついてきてくれます。やるだけやってから考える。既存と新規を並行して進めていくことが必要ではないでしょうか。
 曽我部 成功するか分からないがまずやってみようとする原動力はどこにありますか。
 守上 やれること自体が結構好きなんです。2017年に開業した時は37歳。開業がこんなに面白いのなら早く教えてほしかった。自分で責任を取れば何でもできます。
 曽我部 新しいこと全てを受け入れてもらえないことはあります。否定されても進めていく精神面について教えて下さい。
 守上 何もしなかったらじわじわと衰退するだけです。何もしないリスクの方がはるかに大きい。やったところで上手くいくかは分かりませんが、やらないリスクよりやるリスクを取りたい。

SNSは誰でもできる

 曽我部 お二人のような情熱的な人に出会うためには協会事業をもっと知っていただくことが重要と考えています。保険医新聞などの他にSNSを活用していくべきでしょうか。
 矢野 シンポジウムを後日SNSにアップすれば良いのではないですか。当法人はSNSに力を入れています。160ものアカウントがありますが問題はないです。最低限のルールは作って、後は信頼して若い職員に任せています。
 守上 保険医新聞は情報媒体として内容が充実しているので絶対に残した方が良いと思います。ただ、若い人は長文を読まない。5〜10秒で得られる情報に頼る傾向があるので、SNSを有効に使うと伝わるのではないでしょうか。100書いてあっても読まなければゼロ。2でも読んでもらえれば2です。
 曽我部 協会でも若い事務局に任せていけば良いということですか。
 矢野 SNSは技術なので、何のためにやるかと決めたら誰でもできます。医学部生や若い医師に協会を知ってもらうためにSNSを取り入れてみてはどうでしょうか。SNSが面白いのは新しい方法で新しいことをやるだけではなく、古いものも一つのコンテンツになるところです。年配の人ならではの味のある発信もできますよね。

デジタルだけでは伝わらない

 曽我部 最近の若い医師は医師会の活動にあまり参加されません。飲み会やゴルフもなく、人と人との接点が少なくなってきています。
 矢野 今の若い人でも何のためか明確であればやります。世の中を良くしたい人が減っている訳ではないです。諦めずに「協会に入ればこんなことができる」と発信し続けることが大事です。人は探すのではなく“奇跡的に”出会えるものではないでしょうか。
 守上 私は今45歳ですが、若い人にポジションやノウハウを渡していかなければいけないと考えています。往診では500人もの患者を診ており、それなりに役に立てているのではないかという実感もあり、その実感も後世につないでいかないといけません。次の世代は自分をもっと越えてくれると確信しており、私も次のステージに進めます。
 曽我部 若い医師からは協会に入会するメリットは何かと聞かれることが多く、勧誘には苦労しています。
 矢野 入る前からメリットを聞く人にこだわる必要はないのでは。入ってもらってからしっかり知ってもらえば良いと思います。当法人では毎年運動会を開催しており、雨天中止を避けるため今年から屋内にしました。今どき運動会? と思われるかもしれませんが、世界的企業のGAFAは日本が昔やっていたことを取り入れています。皆で一緒に何かをすることで組織が一体となり、組織の維持につながります。諦めずに飲みに誘えば良いのでは。
 守上 開業して入った西京医師会は最初怖い組織だと思っていました。当時、北村裕展先生から夕方4時頃に電話がかかってきて「今から飲みに行こう」と。まだ診療中ですと答えると「じゃ2時間後な」と。2〜3週間ごとに何度も誘ってもらって飲みに行き、親しみを込めて“オヤジ”という存在になり、西京医師会という組織は面白いと知りました。飲み会が悪いスキームだとは思いません。
 矢野 飲み会では上の立場の人から下の立場の人に向き合わないといけないです。私は昇格した職員にランチ会と称し、理事長室でざっくばらんな話をする会を設けています。新入職員の合宿にも一緒に行きます。
 当法人ではSNSを積極的に活用している一方で、昨年から社内報を復活させました。デジタルだけでは伝わらないものがあるからです。全職員の自宅に送り、部署にも配布回覧しています。社内報をきっかけにコミュニケーションが生まれます。デジタルと昔ながらの人と人とのコミュニケーションの両輪が必要と考えています。
 守上 SNSを相当活用されている矢野先生が対面も大事と言われていることが重要ですね。あれもこれもいろいろあって良いと。

今いる会員が最高の戦力

 曽我部 協会は勤務医会員数が少ないのが課題です。ダイレクトメールを送って勧誘していますが…。
 守上 ダイレクトメールはしっかり読んでもらえているのでしょうか。広告とPRは違います。直接勧誘するのも一つの方法ではないでしょうか。
 矢野 今回のシンポジウムも一つのPRになると思います。伝統ある組織がこのようなテーマを企画できる(やりたいことをできる)意義は大きいです。直接勧誘できれば、人が人を呼ぶ良いサイクルも生まれるのではないでしょうか。
 ここで当法人の宣伝をさせていただきます。洛和会京都看護学校は創立40周年を記念し校舎を新築しました。「挑戦」と「人を育てる」ことを大事にしています。
 守上 先日、看護学校の見学に行きました。図書館は地域の人に公開され、おしゃれなデザインです。一度見学に行ったら入りたいと思うと思います。どのように人を集めるかはお金ではなく、アイデアではないでしょうか。アイデアこそ、強い組織作りのエッセンスだと思います。
 曽我部 最後に一言お願いします。
 矢野 今の時代は分断され危機的状況です。公立病院と民間病院、開業医と勤務医、若い世代とベテラン世代の分断もあります。でも、分断を起こさずに皆で協力して京都の医療を守っていかなければいけないです。まだまだできると思っています。経験を持っておられる先輩方も大事な存在です。
 守上 KISA2隊で活動していた時は病院勤務医にも関わってもらいました。立場が違っても熱い思いは同じです。熱い思いを持っている医師が集まっているのが保険医協会です。今日ここに座っておられる会員こそが最高の戦力になります。諦めずに一緒に頑張っていきましょう。

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