かんぽう趣談 参 田中 寛之(舞鶴)老いに抗う  PDF

私は現在52歳であるが、鏡や写真にうつる自分を見てげんなりすることがよくある。見事に「初老」である。気持ちはそれなりに若いつもりだが、現実は残酷だ。
 男は八の倍数、女は七の倍数。
 この有名な文句は、中国医学の古典、黄帝内経に記されている。年齢による体の変化が男性の場合は8の倍数、女性の場合は7の倍数で訪れるというのだ。男性を例に挙げると、
 24歳 男性として体が出来上がる。
 32歳 男性として最も充実する。
 40歳 抜け毛など加齢による衰えが見え始める。
 48歳 白髪が増える。
 56歳 筋肉、精力が衰える。
 64歳 歯や髪が抜け落ち、内臓機能、足腰全てが衰える。
 とある。なるほどなあ、という感じである。スタンフォード大学の最近の研究でも人間は44歳と60歳の頃に分子の急激な老化が起こるという。二千年前と今を比べても大きな違いはない。

 「老い」は永遠のテーマである。秦の始皇帝は不老不死の仙薬を求めて、徐福を派遣した。現代でも世界各地で不老に対する研究は続けられているが、いまだ決定的なものはない。
 漢方に八味地黄丸という薬がある。もともとの名を八味腎気丸という。腎気(若さ、エネルギー)を保つための8種類の生薬が配合された薬である。
 効能効果には「疲れやすくて、四肢が冷えやすく、尿量減少または多尿で、ときに口渇があるものの次の諸症:下肢痛、腰痛、しびれ、高齢者のかすみ目、かゆみ、排尿困難、残尿感、夜間尿、頻尿、むくみ、高血圧に伴う随伴症状の改善(肩こり、頭重、耳鳴り)、軽い尿漏れ」とある。
 この八味地黄丸、私も以前から服用しようと思っている。が、できていない。@自家診療になるので健康保険が使えないA加齢に抗おうとすることが何だか見苦しいと感じる、といった理由からである。

 そんなある日、化粧品店を営む伯母のところを訪ねると、ちょうど接客中であった。
 「高い化粧品を買っても、悪あがきに過ぎないけどねえ」と客は言った。伯母はにっこりと笑ってこう言った。
 「頑張って悪あがきしましょうよ」
 ああ、悪あがきって立派な行為なんだ。妙に腑に落ちた。

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