そこのところが知りたかった!医療安全Q&A PartU vol.6  PDF

延命治療の意思確認
あやめ法律事務所
福山 勝紀 弁護士

 Q、事前に患者本人から延命治療は希望しないことを確認しましたが、実施しないことでトラブルにならないでしょうか。また、患者が認知症の場合、家族に意思確認を求めても問題ありませんか。
 A、1 はじめに
 厚生労働省が2018年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」でDNAR※のプロセスに関して言及していますので、本回答と一緒にご確認下さい。
 同ガイドラインでは、本人の意思確認ができる場合と本人の意思確認ができない場合を分けて記載されていますが、重要な点は、医療従事者から適切な情報提供を受けること、繰り返し話し合いの時間を持つこと、プロセスで話し合ったことは文書にまとめておくことであるとされています。
 2 延命治療を希望しないと本人が述べた場合
 本人が医療従事者から適切な情報提供および説明を受けた上で、延命を希望しないと述べ、時間経過、心身状態が変化してもなお、延命を希望しないと述べ続ける場合には延命治療しなくても問題ありません。
 あくまで、自己決定権を尊重するということになり、積極的に死亡に至らしめる安楽死とは異なるものですから、殺人罪になるといったことももちろんありません。
 ただし、本人の希望を決定するにあたっての話し合いには、家族を立ち会わせることも重要です。
 本人単独で決めてしまった場合には、亡くなった後に遺族から、本人の意思は真意ではなかった、遺族に対する慰謝料を支払え等の請求をされる可能性がありますので、ご注意下さい。
 3 認知症などで本人の意思が確認できない場合
 自分の命をどうするかを決定できるのは、あくまで本人のみのため、現時点で本人の意思を確認できない場合には、本人の当時の言動などから、現在の本人の意思を推定することが必要になります。
 当時の言動からは推定できない場合には、現在の家族の希望、本人の心身の状態等から、現在、本人がどのように考えているかを推定することになります。
 ただし、ここでの家族の希望というのは、本人の意思とは異なる可能性がありますので、本人の意思が確認できる場合よりは慎重に考える必要があります。
 家族が全員一致でDNARを希望されたような場合を除けば、延命治療しないということは避けるべきだと思われます。2で述べたように、遺族からの慰謝料請求の可能性が残るからです。
 4 まとめ
 いずれにしても、DNARは将来のトラブルを予防するためにも、同意書だけでなく、プロセスに関しての記録を残しておくことがリスクヘッジになりますので、詳細な記録を残すようにしていただければと思います。(完)

※ DNAR(Do Not Attempt Resuscitation):患者本人または患者の利益に関わる代理者の意思決定を受けて、心停止時に心肺蘇生法を行わないこと。

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