診療経営研究会福岡氏講演 医院経営は戦略考え続けプラスに  PDF

開院時の五つの目標
―5年半後の今

自院のミッションは「元気になって帰っていただく」「笑顔になって帰っていただく」こと。開院時に〝選ばれるための〞五つの目標を職員と設定。①患者が気持ちよく帰れる(接遇・治療結果)。②診察・検査・治療で高い療養レベルを提供。③治療選択肢が多岐にわたる。④信頼性、職員の働きがいからも常に新しい情報を取り入れ進化する。⑤職員人事の充実と、誰もが働きやすい職場を作る。
開院2年後に法人化し、有能な人材確保のために22年9月から経営コンサルティングを導入。幹部職員はコンサル会社の研修を受け、人事も担当している。24年4月に「明るく和風に」をコンセプトとした心臓リハビリテーション室を作り、現在最大6人のリハビリを行っている。診察室は3診と発熱室があり、自身は2・3診。別の常勤医師は1診と発熱室を担当。全診察室にモニター6台と10秒で印刷できるプリンター、電子カルテ入力のクラーク、シュライバーを備え、後方には経理とレセプトの準備や請求の確認や紹介状作成の事務職員を配置している。

患者↔医師ではなく
患者↔医療機関の体制

KPI(重要業績評価指標)の達成に向けた進捗や成果を、自院では患者受診数と医療収益で評価する。売上増には①患者数を増やす(診察時間の効率化)、新患数を増やす、既存患者の脱落を防止する②患者(レセプト)単価を上げる―ことが基本的で唯一の方法と考える。患者の要望は職員の態度と待ち時間であり、医療機関側に工夫できる余地がある。自院のモットーは「お待たせしない」。
患者を待たせないための収容力最大化の方法は3点。①診療時間の増加(7→8時間)。②効率を向上し回転率を上げる。人員(コンシェルジュ) を増やしシステム(ウェブ問診)や機器を導入。動画やツールを用いて疾患を説明するクラークも採用。③人材育成で個人のレベルアップ。職員を研修させたり、採用を強化。評価制度も導入し、モチベーションアップに。
診療効率化のポイントは、業務を棚卸し、医師でなくてもできることを分業すること。要は患者↔医師の関係ではなく、患者↔医療機関の体制を築くこと。医師は医師にしかできないことに専念し、症状の簡易的な説明や入力はツールに頼る、職員に任せるなど、医師がどこまで手を放すことができるかがポイント。

人材確保と育成は手厚く、言語化

採用時に重視するのは面接した職員が責任を持って育てられるか。面接までのメールでのやり取りが律儀であること。面接時に〝熱く語る〞人を求める。長所を聞きたい時は、名詞形ではなく、動詞形で聞くのが基本。何が好きか?
ではなく、何をすることが好きか?
または何をすることが得意か?
自院ホームページ内の募集ページは必須で、院長メッセージや世代ごとの職員のインタビュー動画も企画。求める世代のインタビュー動画がなければ応募は見込めない。
毎朝クリニック理念や目標、行動指標(クレド)を全員で唱読する。月1回勉強会の日は半日休診に。接遇はチーム目標を設定し、問診のシミュレーションで練習する。他医療機関の見学内容をこの勉強会で報告する。経営方針発表会では、KPIの確認、各部門の成績発表。医師の話に加え、各部門のリーダーから報告と今年の目標を発表する。ホワイトボード、ChatWork、ファイルメーカーでインシデント報告や連絡事項を共有している。
野球部出身として名捕手・野村克也氏の言葉が刺さる(野村四録)。あいさつは人間社会の基本。メモが習慣になると、感じることも習慣になる。「真似る」を「学ぶ」にまで進める。部下を見て評価する言葉を探し出す。「この人間を育てたい」という気持ちは、人を育てる原点だ。ノウハウやテクニックを教える時は、言葉を省略しない。指導のポイントは、「ツボ」「コツ」「注意点」。感動すれば、人は自然と動く。上に立つ人は下の人間たちの人生を背負っている意識が必須である。
教える際には①小さな行動に分解して言語化する。具体的な行動の言葉にする。教える人によって変わらない。②行動の言葉をチェックリストにする。③チェックリストで反復トレーニングする。系統的脱感作という言葉があるが、負担感がない小さなステップに分けて徐々に慣れる。このチェックリストが「マニュアル」である。

選ばれるための戦略とは

「なぜ勝ったか」より「なぜ負けなかったのか」を考えることが以後の戦略(マーケティング)に大きなプラスをもたらす。人生とは、文字通り「人に生かされ、人を生かす」こと。最終的にその社会にいかに貢献できたのかがその人物の価値を決める。「人との出会いが人生をつくる」と考えているため、本日の研究会にも参加している。感じる力の「感」は、感謝の「感」。「とは精神」を持って自問自答する。考えることを放棄してはならない。
患者に選ばれるには、改善(患者不満、接遇、診療スタイル)と医療レベル向上(医療技術、設備の充実)のための組織づくり。リピートしてもらうためには、未来を見せ続ける(○年後はこうなるとの診断)、アンケート結果を視覚化する(患者意見を反映)、院長からお祝いを贈る(古希や喜寿等の節目)―などの戦略が鍵。経営者の仕事は基本的にルールの明文化。マニュアルや強化制度の作成、文章化されたものを作ることである。

【福岡 正平】滋賀医科大学卒業、京都大学大学院医学研究科博士課程修了。三菱京都病院、洛和会音羽病院、大津赤十字病院等に勤務。心臓血管外科医として「西洋医学」の研鑽を積みながら「東洋医学」も学んだ“二刀流”。2019年10月京都市右京区太秦でふくおかクリニック開業(内科・外科・循環器内科・漢方内科)。22年1月法人化。院長以外の常勤医師、看護師やセラピストなど23人の職員を率いる。24年から年1回全職員対象の「経営方針発表会」を開催し、クリニック(院長)の理念を共有。クリニックや職員の成長を図るとともに、院長自身は日常診療の傍ら、マーケティング知識の向上にも邁進している。

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