芳年の美人画は品格があり情感豊か
風俗三十二相は芳年が明治21(1888)年に発表した大判33枚揃えの代表作たる美人画錦絵で、江戸時代寛政年間から明治期に掛けてのさまざまな年代や階層の女性を描き切っている。三十二相は元来仏教用語で白毫(仏の眉間にある右回りの白い巻き毛)、肉髻(仏の頭の頂に隆起した肉)、後光(仏や菩薩の体から指す光)、ならびに像では表現できない相として声が美しい梵声など仏に備わる三十二の優れた相(身体的特徴)を指し、転じて女性の容姿の美しさを指す。浮世絵では西村重信の「三十二相像」、歌川国貞(後の三代豊国)の「当世三十二相」などが既刊されており、それらを咀嚼の上、学習・開展したと思われる。全作品題名には「〜さう」や「〜そう」と言う女性の動作や描かれた時代と身分が付けられている。
小さくて見づらいが目録とも所蔵30図を掲載しておく。(図1〜30は別誌拝借/9・10・26は欠)人物の内面描写まで踏み込んだ芳年の美人画は後年の日本画だけではなく、明治29(1896)年に黒田清輝や山本芳翠らを中心にした外光派の白馬会画家にも少なからず影響を及ぼしたのではと推察している。
特に個人的には開業時から小生自身で始めた鍼灸・漢方治療を表しさらに平成16(2004)年4月17日より令和5(2023)年11月11日まで約20年間、嘗ての臨床現場や西京医師会で一緒に切磋琢磨した後輩や同志を巻き込み、その時代の paradigm
shift を成された旬の先生をお招きして講義を賜った西京整形外科病院勤務医・開業医有志による病診連携の会(春秋年2回計37回開催)等とまたその際、毎回上梓時には徹夜に及んで配布した京都桂東洋医学センター誌(計33号刊行)の表紙を鍼灸にちなんで「8・あつそう」にしていたのが我ながら感慨深い。その影には日々の公私雑事のみならず、拙院患者さんを対象にしたロコモ・サルコ・介護予防・リハビリテーション通所施設 Narrative Ortho Medical Rehabili & Care を10年に亘り運営してくれた看護師・鍼灸師の愛妻・かお美、ならびに常々、無理・難題を担ってもらった岡本女史には心底から感謝の念に堪えません。
出所 国立国会図書館デジタルコレクション 月岡芳年『風俗三十二相』(出版者:島鮮堂、出版年:1888年)
目次
図1 うるささう 寛政年間処女之風俗
図2 しだらなささう 寛政年間京都芸子風俗
図3 いたさう 寛政年間女郎の風俗
図4 あつたかさう 寛政年間町家後家の風俗
図5 ひんがよささう 享和年間官女之風俗
図6 けむさう 享和年間内室之風俗
図7 つめたさう 文化年間めかけの風俗
図8 あつさう 文政年間内室の風俗
図11 さむさう 天保年間深川仲町芸者風俗
図12 おもたさう 天保年間深川かるこの風ぞく
図13 みたさう 天保年間御小姓之風俗
図14 にあいさう 弘化年間廓の芸者風俗
図15 めがさめさう 弘化年間むすめの風俗
図16 かゆさう 嘉永年間かこゐものの風ぞく
図17 むまさう 嘉永年間女郎之風俗
図18 かいたさう 嘉永年間おかみさんの風俗
図19 じれつたさう 嘉永年間鳶妻之風俗
図20 たのしんでゐさう 嘉永年間師匠之風俗
図21 あいたさう 嘉永年間おいらんの婦宇俗
図22 のみたさう 安政年間町芸者俗ニ酌人之風俗
図23 にくらしさう 安政年間名古屋嬢之風俗
図24 すゞしさう 明治五六年以来芸妓の風俗
図25 おきがつきさう 明治年間西京仲居之風俗
図27 暗さう 明治年間妻君の風俗
図28 あぶなさう 明治年間当時芸妓の風俗
図29 はづかしさう 明治年間むすめの風俗
図30 ねむさう 明治年間娼妓の風俗
図31 うれしさう 明治稔間当今芸妓之婦宇曽久
図32 遊歩がしたさう 明治年間妻君之風俗
図1〜32(9・10・26は欠)月岡芳年「風俗三十二相」(号は芳年のみ)