点滴漏れで皮膚潰瘍
(乳幼児男の子)
〈事故の概要と経過〉
患者はロタウイルス腸炎に罹患し本件医療機関に入院した。入院2日後の深夜、輸液ポンプの閉塞アラームが鳴ったため、看護師はポンプからチューブを外し滴下を確認した上で点滴(ソリタT2:500mL)を継続した。その際、患者を起こさないように点滴の刺入部とその周辺の観察を行わなかった。翌朝、患者の祖母が点滴中の患者の左手が腫脹していることを発見。駆けつけた看護師が確認すると、点滴針が完全に抜けておらず皮下に一部入った状態でZ型に折れ曲がっていたため、すぐに抜針した。同日午後、患者は本件医療機関の皮膚科医の診察を受けた上で、当初の予定通り退院した。
退院2日後から患者は皮膚科に通院し、局所麻酔下でデブリードマンを実施された。退院約2週間後には、創が深く外科的処置を検討するためA医療機関の形成外科を紹介受診した。その後の経過は良好とのことであった。
患者側は点滴漏れが比較的頻繁に起こるとの医療機関の説明には理解を示したが、頻繁に起こるのであれば特に痛みを訴えることができない乳幼児にはより頻回に観察すべきと主張した上で医療費などの賠償を求めた。
医療機関側は、点滴漏れはアラームが鳴った深夜の時点で発生していたと考えられるため、その時点で看護師が刺入部位を確認しなかったことは過誤と判断した。
紛争発生から解決まで約3カ月間要した。
〈問題点〉
医療機関側は点滴漏れが深夜に発生していたと推測するが、発生時期は確定できないことから、潰瘍形成を含め今回の事故が予防できたかどうか疑問が残る。しかし、アラームが鳴った際に自然滴下は確認したものの、点滴の刺入部を確認しなかった点には問題があったと考えられる。患者を起こさないように気配りしたことは看護師の過失を否定する合理的な理由とはならないであろう。なお、点滴漏れの発覚直後、患者の親に「点滴漏れはよくあることだ」との発言が患者側の態度を硬直化させたとの報告があり、発言には患者側の立場に立って一層注意されたい。
〈結果〉
医療機関側は過誤を認め、賠償金を支払い示談した。