健康被害大きいPFAS 緩い基準 曝露避けるには  PDF

協会は小泉昭夫氏(京都保健会社会健康医学福祉研究所所長、京都大学名誉教授)を講師に環境問題講演会「PFASとはなにか? どう立ち向かうか?」を5月10日に協会会議室で開催。ウェブも含めて33人が参加した。小泉氏は日本の基準が諸外国に比べてなぜ緩いのかを解説。食品安全委員会の見解が国際的に知られているエビデンスを無視していることを批判した。その上で、曝露をどう避けるかについても言及した。

小泉・京大名誉教授が講演

 有機フッ素化合物PFASは構造が脂肪酸と似ているため、腸管で再吸収を受け腸肝循環するのが排出が遅い原因である。健康影響は、抗体反応の低下、脂質異常症、幼児および胎児の発育抑制、腎臓がんのリスク増加など十分なエビデンスが示されている。WHOの国際がん研究機関(IARC)はPFOAをクラス1(ヒトの発がん物質)、PFOSをクラス2B(発がん性の可能性がある)に区分している。
 浄水場から高濃度PFASを検出した岡山県吉備中央町で行われた住民対象の血液検査で、極めて高い値が検出されたが、汚染源が特定され給水が行われなくなると血中濃度も下がり効果があると分かった。汚染源の特定と、血液検査は動向を知るため有効であることがあらためて証明された。
 PFASを含む製品を作っていたダイキン摂津工場の元・現従業員らの健康調査で、一部の人の血中からPFOAを高濃度で検出し、間質性肺疾患を発症したとする研究結果も紹介。日本の基準が諸外国に比べて緩いのは、食品安全委員会の「評価書」見解に問題がある。「評価書」は、①発がんの疫学データ②IARCの発がん分類③免疫毒性④胎児/新生児の発育抑制―を無視している。さらに、環境省が行った「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に関する研究論文で母親の血中PFAS濃度が高いと子どもの染色体異常の発生が多い傾向が指摘されていたことにも触れられていない。
 環境省による「水質基準」への格上げ方針が報道されているが、基準値となる数値は暫定的な目標値(PFOAとPFOSの合計50ng/L)が据え置かれ、何ら解決策とはならない。その基となっているのが食品安全委員会の「耐容一日摂取量(TDI)」20ng/s(体重)/日である。エコチル調査を反映すればTDIは0・1ngで、対応する水道水の基準値は0・25ng/L、つまり200分の1としなければならない。
 曝露を避けるには、個人での対応と集団対象での対応の併用が肝要。前者は、明確な曝露源(高濃度の水道水、地下水)を避ける、浄水器は必要に応じて設置、血液検査で曝露量の動向を知ること。後者は、汚染源の調査とこの間多くの自治体で認められつつあるヒトのモニタリング(血液検査)の公費補助を要望して地方、中央行政に働きかけることが必要である。

講師の小泉氏

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