6月13日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針は「コストカット型経済から脱却」を謳い、医療界から懸念が示されていた社会保障費の伸びへのシーリングについても「経済・物価動向等を踏まえた対応等」が加味される等、従来方針からの変化が見られる。これは国民が直面する物価高騰、生活苦に対する一定の配慮であると受け止めることができる。26年度の診療報酬改定についても「昨今の物価上昇による影響等について、経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う」と前向きに受け取れる記述がある。
しかし全体として従来の医療費抑制路線は転換せず、社会保障分野における「歳出改革を通じた保険料負担の抑制努力」すなわち医療費抑制策の継続が表明されている。
特に重大なのはこの間、自民・公明・維新の会が取り交わした「合意」が「原案」段階にはなかったにもかかわらずほぼそのまま反映されたことである。
「持続可能な社会保障制度のための改革を実行し、現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減を実現」「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し」「新たな地域医療構想に向けた病床削減」等を「25年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現が可能なものについて、26年度から実行する」という内容は「コストカット型経済から脱却」する姿勢とは矛盾するものである。
6月11日の3党合意文書は「OTC類似薬の保険給付の見直し」を「早期に実現が可能なものについて令和8年度から実行」「令和5年末時点で海外2カ国以上でスイッチOTC化されている医薬品のうち、本邦でスイッチOTC化されていない医薬品(約60成分)を令和8年末までにOTC化する」と明記している。保険給付から除外、選定療養化が目指される28成分は4月17日に維新の会が示しており、後者のスイッチOTC化を目指す58成分は3月28日に規制改革推進会議で国から示されている。これらには日常診療で処方される薬剤が多く含まれており、患者の外来受診控え、負担増、医療機関経営への影響はもちろん、患者の安全を脅かすものである。
また病床削減について、合意文書では「一般病床・療養病床」5・6万床、精神病床5・3万床の計約11万床の削減が「別紙」に明記されている。医療機関経営が歴史的困難に陥っている今日、財政インセンティブも導入してダウンサイジングを誘導、結果医療費抑制につなげることはまことに品性に欠けるものと言わざるを得ない。新興感染症がいつ到来するか分からない今日の状況において、これほどの病床削減を国として進めることは許し難い。
こうした政策は患者がまともに医療を受けられない事態につながりかねない危険なものである。このように徹底的な医療費抑制策が骨太の方針に書き込まれたことに強く抗議するとともに、私たちはそれらの実行の阻止に全力をあげたい。そして公的医療保険制度・医療提供体制を拡充し、引き続き市民とともに「保険で良い医療と医業」の実現を目指す所存である。
2025年6月26日
京都府保険医協会
副理事長 渡邉 賢治