そこのところが知りたかった医療安全 Q&A Part 2 vol.3  PDF

認知症・意識不明患者の医療同意

あやめ法律事務所
江頭節子弁護士

 Q、認知症や意識不明の状態で緊急搬送されたケースなど、本人の同意が確認できない患者に対し、手術の同意はどう取ればいいでしょうか。また、判断能力には問題ありませんが、まひや震えなどにより同意書に署名できない患者の場合、医療スタッフが代筆しても問題ないでしょうか。
 A、緊急搬送され直ちに手術が必要だが患者は意識不明で同意が取れない場合、緊急手術は民法697条の「事務管理」として認められています。これは義務がないのに他人のために何かをする行為のことで、実費請求権はありますが報酬請求権が規定されていません。意識が戻ったら事後的に手術の同意と診療契約の追認をもらいましょう。事後の同意書は日付を術前にさかのぼらせるなど事前に取ったかのように装わず、緊急のために事前に説明できなかったがこのような状況下でこのような治療をしたという内容にします。事前の同意書の書式なら事後であると分かるよう加筆しましょう。
 医療の説明を受け同意する権利は患者本人だけに専属するので、認知症などで同意が確認できない場合、家族や成年後見人からもらうのは法的には医療同意ではなく治療の依頼(診療契約の締結、追認)になります。特に成年後見人は医療同意権がないからと同意書への署名を拒否することがあるため、治療内容を説明した紙の標題を「同意書」ではなく「説明書」とし、「上記の説明を聞いて理解しました」という文言にすればよいでしょう。
 認知症で判断能力がないと分かっている患者が緊急搬送され、すぐに家族などから治療依頼を受けられず緊急手術をした場合、速やかに家族などから事後的に診療契約の追認を得ましょう。
 初めての患者でその言動から重度の認知症が疑われる場合、とりあえず患者が同意の返事をしてくれるなら手術をします(後から同意が無効と家族などが言ってくることは想定し難いです)。患者が同意の返事をしない場合は事務管理となり、後から家族などから追認を得ます。身寄りがないと判明した場合は市町村に連絡し成年後見人を付けてもらい、その成年後見人に事後的に診療報酬の追認をしてもらいましょう。
 なお、患者が判断能力があり同意もしているが字を書けない場合、同意書の署名を医療スタッフが代筆し、代筆の理由、肩書と氏名を同意書と診療記録の両方に記載しておきます。

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