主張 薬の保険除外は国民のためか  PDF

コメの価格高騰が話題になり、政府が食糧管理法という法律の下でコメの価格を決定していた時代のことを思い出した。1995年にこの法律が廃止されてコメの流通が自由化されたが、価格決定は一般の市場原理とは異なる複雑な方法があり、需給を反映していないと最近知った。価格高騰にはさまざまな原因があるようだが、気候変動の影響や農業の担い手が減少することを考えればその収穫量があり余るほどになるとは考えにくい。政府が補助金を出して減反政策を継続していることも問題視されており、食糧需給に関する現状を見誤ると大きな混乱を招きかねない。
 現在、医療費削減のためにOTC類似薬の保険適用除外が議論されている。国会では保険適用除外を「現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減のため」としているが、これに対して日本医師会は、医療機関の受診控えによる健康被害、経済的負担の増加、薬剤の適正使用が難しくなることを挙げ強い懸念を表明している。現状でも自己判断で市販薬を使用して受診が遅れ、重症化して高額な医療費が発生することや病気の早期発見が遅れて長い治療期間や予後に影響することもある。
 高額な保険料を払った上に薬剤の自己負担を求められるとなれば、健康保険に加入しない国民が増えて、国民皆保険制度の崩壊にもつながりかねない。
 さらにOTC薬はお薬手帳に記載もなく、けいれんを起こす子どもには処方注意となっている抗ヒスタミン薬や薬の重複投与があった場合に薬の副作用かどうか分からなければ、医療安全にも関わる。
 数年前からかぜ薬や咳止めを本来の目的でなく精神への作用を目的として大量に服用する「オーバードーズ」が若者を中心に広がりつつあり、厚生労働省は薬剤師や販売者に通達を出しているが、現状はどうであろうか。救急搬送が増えれば、救急医療の圧迫にもつながりかねない。
 OTC類似薬の保険適用除外で医療費が削減できるという目算は否定しないが、現場で生じる課題に対して一つひとつ丁寧に解決策も含めて国会で議論してほしい。

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