日本が「構造改革」すなわち新自由主義改革に舵を切ってから30年以上が経とうとしている。この間、医療をはじめとする社会保障は歳出抑制と規制緩和、「国から地方へ」「官から民へ」の波に見舞われ、非常な困難を経験してきた。そこで、さらに今後起こるであろう「改革」について、会員の意見を聞いた。
24年10月から25年4月に開催した各地区医師会との懇談会で関連する報告を行い、併せて会員アンケートを実施。対象者2246人のうち336人から回答(15%)があった。
高齢者の負担増は
賛否拮抗
全世代型社会保障と銘打って「年齢ではなく能力に応じた負担」を謳い、75歳以上の医療費窓口負担が3割となる人の対象範囲を拡大しようとしていることについて複数回答で聞いた。
高齢者の負担増について僅差であるが「若年世代の負担を減らすためには高齢者の負担増もいたしかたない」42%が「高齢者は若年世代に比べて病気にかかりやすく、負担増は受診抑制、健康悪化につながるので行うべきでない」41%を上回った。「医療費抑制ありきではなく医療費全体を拡大すべき」も37%あった(図1)。
混合診療も
賛否分かれる
後発品のある長期収載品の「選定療養化」を皮切りに保険外併用療養費の活用拡大など、保険給付範囲を狭めていこうとしていることについて複数回答で聞いた。
「保険財政が潤沢でないのであれば混合診療もいたしかたない」が41%、「医療費抑制ありきではなく医療費全体を拡大すべき」が38%、「選定療養の仕組みを拡大することは混合診療の拡大につながるので認められない」が32%となった(図2)。
かかりつけ医制度は負担増、義務化不要
25年4月から「かかりつけ医機能報告制度」が始まることについて複数回答で聞いた。
「地域の医療者は専門性を発揮してすでにかかりつけ医として働いているので義務化は不要」68%、「報告が義務化されると事務負担が重すぎる」63%が大方の意見で、「地域の医療提供体制を整備するためには必要」は7%に過ぎなかった(図3)。
自由開業は半数が維持
都市部の開業医が多いことなど地域間、診療科間、病院・診療所間の医師の偏在を攻撃し、医師多数区域での開業規制に踏み出そうとしていることについて複数回答で聞いた。
半数近くが「開業の自由は維持すべき」と回答した。一方で「計画配置もやむなし」が33%ある。「過疎地の医療維持のために公的支援と地域活性化が必要」が最も多い54%となった。「医師の総数を増やすべき」は8%にとどまった(図4)。
診療報酬制度、医療制度、公衆衛生政策の問題や矛盾について訴えたいことがあるかについて、ほぼ半数が訴えたいことが「ある」としたが、36%は「ない」と答えた(図5)。
さらに「保険で良い医療と医業」を
今回のアンケートで高齢者の負担増や混合診療の拡大について「いたしかたない」が想定以上に高い値となった。長きにわたる医療費抑制策の中で、諦観が広がっている面があるのかもしれない。中でも「混合診療」についてはその捉え方が千差万別であり、丁寧な設問が必要であったとの反省もある。「保険で良い医療と医業」の両立を体現するのが、保険医協会の「混合診療解禁反対」のスタンスであり、それに向けた合意形成をあらためて図っていく必要がある。
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