誰しも忘れられない幼児体験の記憶があると思うが、小生にとっては幼い頃読んだ童話『幸せの王子』(オスカー・ワイルド著)がまさにそれである。あまりにも有名な傑作であるためあらすじは述べないが、読了した瞬間胸に込み上がってきた感動は今もなお鮮明である。
この話のモチーフは悩み苦しむ人々へ手を差し伸べ、それを自らの幸せと感じることであろう。それはまさしく病める人に対峙する全ての医療人の心と相通じるものがあるのではないだろうか。紛れもなく、この記憶が自ら医療の仕事を目指すきっかけとなり、今でも自らを鼓舞する心の原動力と言っても過言ではない。
言うまでもなく医療行為やそれを支えるための諸運動は忍耐と多分の自己犠牲の上に成り立っている。僭越ながら保険医協会活動もその一つと捉えていただけたら幸せであるが、安楽保身主義や金銭対価の見返りを第一と考える最近の一部風潮は真逆の方向と思料する。
しかしながら、医療人のプライドと自負心を打ち砕くような事象が昨今あまりに多過ぎる。コロナ禍の混乱期の資料を基に診療所が儲け過ぎているとの論調をはじめ、診療報酬の改定のたび、医業経営は理不尽にもひたすら締め付けられ続けている。しかも新年度政府予算の骨子中に某政党の主張である社会保障費4兆円削減に向けて、OTC類似薬の保険外し等が議論されることになっている。これが本当に実施されると医療機関は大打撃を受けることになり、場合によっては多数の閉院を余儀なくされる恐れがある。
どのような高邁な心得があっても、生活苦に喘ぐ毎日では病める人々を救う心が折れてしまうことを誰が責められようか。
我が国の医療制度は今まさに分岐点に立っていると実感せざるを得ないのである。
「幸せの王子と燕の心」を失いたくないと思う日々である。
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