政策部会部員
小泉 昭夫
米国のバイデン政権はロードマップに従いPFOSとPFOAの非常に厳しい水道水基準の導入、スーパーファンド法(包括的環境対策補償責任法)の登録により強制的に汚染者にPFOSとPFOAの除染の実行を求める法的規制の一連の作業を予定通り完了させた(7月8日発効)。スーパーファンド法は汚染者が除染を拒否した場合、国が費用負担を行い、その後訴訟で汚染の寄与分により除染費用負担をさせる仕組みである。
一方、日本では6月に内閣府の食品安全委員会が「評価書 有機フッ素化合物(PFAS)」を決定した。
評価書では、疫学的に根拠がある四つの健康影響(免疫毒性、胎児・新生児の発育抑制、脂質代謝異常、腎臓がんの発症)とIARC(国際がん研究機関)の「ヒト発がん物質」であるクラス1の認定も全て否定し、2016年に米国の水道水基準の導入の基礎となり、我が国でも2019年に導入したTDI(体重sの一日耐用量)を20 ng/s/day と正式に決定した。
9月下旬に、環境省の看板研究プロジェクトであるエコチル調査(子どもの健康と環境に関する全国調査)が環境系のトップジャーナルに出版された。その論文は、PFAS妊娠初期の低濃度曝露(PFOSで3ng/mL未満の中央値)により児の染色体異常が増えることを、非常に質の高い疫学研究で証明したものである。環境省が支援する環境研究で、胎児期の子宮内曝露が児の染色体異常を引き起こすという今回の成果は、確かに研究が環境省の見解を示すものではないと断っているが、1000億円程度の膨大な国家予算を投入した国家プロジェクトである。事実、環境省はエコチル調査を「環境行政の施策に還元するための研究である(エコチル調査)令和四」と高らかに宣言している。
特に、今回のエコチル調査の成果は、関連する胎児の発育抑制や小児発がん、流産や死産など多様なリスクの評価に波及効果のあるブレークスルーである。早急に評価書の改定を求める必要があろう。