そこのところが知りたかった!医療安全 Q&A Part vol.1  PDF

「他院との共有情報の開示請求」
あやめ法律事務所 松尾 美幸 弁護士

 患者の対応に苦慮する事案にQ&A形式で協会の顧問弁護士がお答えする連載(本紙第3101号から全10回既報)の第2弾を開始します。
 Q、転院に際して診療情報提供書を作成したところ、患者から事前に内容を確認したいと申し出がありましたが、応じる必要がありますか。また別の患者から、当院宛ての診療情報提供書や他院に依頼した検査画像の開示を請求されましたが、開示してもよいでしょうか。
 A、診療情報提供書とは一般的に、医師が患者に他機関での診療の必要性等を認めた場合(例:医療法1条の4第3項、診療報酬点数表「診療情報提供()」、診療情報提供等に関する指針10)に、当該患者の同意を得て、その診療に基づく診療情報を当該機関に提供するために作成する文書です。紹介状と言う場合もあります。
 (1)事前開示の求めに対して
 診療情報提供書の内容は患者の個人情報です。
 当該患者が開示を求めた場合、原則として拒否できません(個人情報保護法第33条第2項前段)。
 例外的に、以下の場合は開示を拒否できます(同条第2項後段)が、該当するケースは(特に三は)比較的稀と考えられます。
 一 本人または第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害する恐れがある場合
 二 当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼす恐れがある場合
 三 他の法令に違反することとなる場合
 設問では、かような例外に該当するような事情は見当たらないため、患者の申し出を断る理由がありません。したがって、応じる必要があると考えます。
 開示した結果、患者から内容の変更を求められた場合、これに応じる義務はありません。開示する場合はあらかじめその点を説明した方がよいと思います。また、必要な情報の記載漏れによって、患者が適切な治療を受けられず、損害が生じた場合は損害賠償責任を負うことがあります。
 よって、患者から変更を求められた際には、今一度、医学的に変更が必要かどうかを検討した上で患者の申し出に応じるか否かを決めて下さい。変更の有無を問わず、変更を求められた経過をカルテなどにとどめておくことをお勧めします。
 (2)当院宛ての診療情報の取扱い
 他院で作成された当院宛ての診療情報提供書や他院に依頼した検査画像も、患者の個人情報であり、当院の当該患者に関する診療記録の一つです。
 保険診療上の診療情報提供書は紙・電子カルテに綴るものとされているため、カルテとして5年間保存しなければなりません(医師法第24条、療担規則第9条※)。検査画像をカルテに取り込む場合はカルテの一部となっているので5年間、別途保存する場合は保険診療記録として3年間保存しなければなりません(療担規則第9条※)。
 これらの保存期間中に患者から開示を求められた場合は、(1)と同様に原則として開示しなければなりません。

 ※療担規則…「保険医療機関および保険医療養担当規則」の略称として表記しています。カルテなどの保存期間については、本紙第2773号の保険診療Q&A(協会ホームページで参照可)に要点をまとめたものが、また、厚生労働省のホームページでは一覧表を確認いただけます。

厚生労働省のホームページはこちらから

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