鈍考急考 60 原 昌平(ジャーナリスト)  PDF

福祉職の待遇が悪すぎる

 ソーシャルワーカーのなり手が、どんどん減っている。
 今年2月の社会福祉士国家試験の受験者は2万7616人で、前年より6923人の減少。かつては毎年のように4万5千人を超えていたのに比べ、4割も減った。
 精神保健福祉士国家試験の受験者は6642人で、前年より336人減。こちらは横ばいまたは微減が続く。
 受験料が社会福祉士1万9370円、精神保健福祉士2万4140円と異様に高いことも一因だろう(医師国家試験は1万5300円、看護師国家試験は5400円)。
 より根本的な問題は、福祉職の待遇の悪さにある。
 介護・障害福祉の事業所や社会福祉協議会の場合、正職員でも月収は二十数万円が多く、長く勤めても年収400万円にはなかなか届かない。
 しかも公務員を含めて非正規雇用が多いため、実際には、もっと低水準の労働条件で働いている人が多い。
 まともな収入を得るには、正規の公務員になるか、大きな医療機関に採用されるか、大学の教員になるか、事業の経営者として成功するか。
 そんな状況だから、大学の福祉系学部の志望者は減り、そこを卒業しても一般企業に就職する学生が少なくない。それでは、福祉職になる人のレベルは下がっていく。
 困っている人の相談に乗り、生活支援を組み立てるのは、簡単な仕事ではない。人と接するスキルも、社会制度の知識も、関係機関と連携する力も必要だ。耳、口、足、そして頭を使わないといけない。
 けれども業務独占ではなく名称独占(資格がないと名乗れない)にすぎず、誰でもやってよい仕事とされたまま。
 有資格者だけ仕事につける任用独占という方式もありうるが、社会福祉士や精神保健福祉士でも、介護支援専門員や障害福祉の相談支援専門員になるには、介護職や医療職と同様の経験年数を経ないと受験や研修受講ができない。
 介護、障害福祉などの判定で重視されるのは医師の意見書。テーマは生活支援の要否なのに、福祉職には判断する権限がない。病院勤務の相談員も、主たる仕事はベッドコントロールだったりする。
 国家資格を所管する厚労省から軽んじられ、なめられているのではないか。福祉は女性の仕事という古い差別的感覚も底流にあるのだろう(実際は男性の福祉職も多い)。
 なのに、専門職団体の危機意識は弱い。後継者が先細りし、優秀な人材が来なくなるのに、待遇改善を強く要求することはなく、判断権限を求めることもない。職域拡大を図り、診療報酬や介護報酬上の評価を要望する程度だ。
 若い学生の養成が減るなら、人生経験を経て福祉に関心を抱く社会人からの転進を重視すればよいのに、そういう方針転換もできていない。
 政府や政党が処遇改善を口にするのは看護、介護ばかり。福祉職に関しては、そもそも存在が視野に入っていない。
 すべての人々がよりよい生活を営めるよう、必要なら社会を変えるのがソーシャルワーカーの役割とされている。
 自分たちの粗末な待遇の改善を強くアピールできないようでは、立派な理念が泣く。

ページの先頭へ