自転車とスケッチ 5 山下 元(乙訓)  PDF

輪行: サイクリング 公共交通機関を使ってサイクリングを始める所まで自転車を持って移動する事(広辞苑第七版)

輪行散歩と風、パンク

 ある時、ママチャリを止めて幼児に声をかけると、その子が走って来て自転車の後を押しました。すると自転車が前にスイスイ。子どもの微力でも自転車はこれほどに進むのか。
 サイクリング車に吹きつける風の威力こそ無視できません。風下に向かう自転車は軽快に走りますが、風に向かう自転車は大変重い。順風の中だけを涼しい顔で走るために、輪行散歩では逆風方向の走りを電車に任せることができます。
 強風の威力にあきれた記憶があります。愛知県御油で旧東海道の松並木道を東上していました。追い風でペダルがうそのように軽くなったと思うと、おびただしい松葉が道路に散り敷き始めました。松の枝まで混じっているので身の危険を感じ、国道1号線に逃げ出しました。広い安全な道に出ると背中を押す風で自転車が猛スピード。前を行く原付バイクにも劣らない速さ。思いました。
 「江戸まで走れるぞ」
 次にパンクの対策です。
 まれですがパンクはサイクリングにつきものです。自転車にJAFはありません。
 私のパンク対策は簡単です。情けない方法ですがパンク車を押して駅まで行き、袋に収めて電車で帰途に着くことです。
 「そんなにうまく、駅の横でパンクするものかい」
 私の輪行の立案は鉄道網の上です。駅が遠くなり過ぎないようにしています。疲れや不安を感じた時でも、何とかして駅にたどり着けるのです。自分の体力は底が知れたものだし、相棒の自転車も無病息災というわけにはいきませんから。
 2003年、瀬戸内海に向かう峠の頂上で自転車が急にガタガタ。パンクです。
 「チェッ、釘だ」
 長い坂をトボトボ歩いて下り、坂越という駅で自転車を畳みました。
 2007年、豊橋から伊良湖岬に向かう途中でパンク。自転車を押して歩いていると、海産物屋に
 「地方発送デキマス」
 のクロネコマークを見つけました。お店の人に配送を懇願して、袋詰めの自転車を託しました。自転車がないとぶざま、海岸をさみしく伊良湖港まで歩き、鳥羽経由で帰宅しました。翌日、自宅に自転車が届きました。
題の絵・挿絵も筆者

自転車の順風満帆
広重風東海道五十三次の四日市

ページの先頭へ