昔からスキーが好きでしたが、年を取り先がなくなったので海外にスキーへ行き出しました。フランスのサヴォア地方にあるラプラーニュスキー場で写しました。
(2024年1月)
小説「砂の城」(遠藤周作)― 私にとっての名著 ―
江藤 孝史(下京西部)
生きること…14歳の衝撃
私にとっての名著とは遠藤周作(1923−1996)の「砂の城」(1976年刊行)です。1970(昭和45)年頃を時代設定とするこの小説は長崎の高校に通う主人公の少女が16歳の誕生日に亡き母からの手紙を受け取るシーンから始まります。主人公が2歳の時に結核で亡くなった母は、16歳の誕生日に渡すようにと夫(主人公の父)に託していたのです。多感な時期を戦時中に過ごした母は、美しいものは決して消えないことをしみじみ感じたと手紙に書き記し、「美しいもの、善いものへのあこがれを失わないで生きていってほしい」という想いを16歳になった娘へ書き残しました。主人公は母からの手紙を受け取った16歳の誕生日を一生忘れず、「決して消えることのない美しいもの、善いものへあこがれを持ち続ける」意味を友人や先生との交友を通じて追い求めていきます。
私がこの小説を読んだのは中学3年生の夏休み(1986年7月24日)でした。本を開くなり「生きること」の言葉が目に入った時は衝撃でした。14歳の私にはそれまで生きることについて真摯に考えたことが一度もなかったので、洗礼とも言える衝撃でした。この衝撃は38年経った今でも鮮明に覚えています。砂の城を読んだその日の風景、天気、景色、風音、香り、家族、友人、先生、全てが鮮やかに記憶に残っています。52歳の今となって思い返すと、14歳の私が「生きること」の尊さを知るにはあまりにも未熟であり「生きることの重み」を知ることになるのはずっと後になってからのことだったとしみじみ思います。砂の城から受けた衝撃は人生の教えとなって今の私の心に深く刻まれているのです。
数年前、テレビ番組で中江有里さん(女優、作家、歌手)がこの小説本を手に取り、「美しいものはかならず消えない」という言葉に感銘を受けたと話されているシーンを拝見しました。中江さんは高校1年生の時に女優として上京したものの、当時は思春期で自分の位置が分からずに感情が不安定だったそうです。砂の城の「美しいもの」という言葉を青春期の中江さん自身が目指しているものに置き換えることで、焦らずに研磨し続けることにより安定した自分の位置に到達しうるという一つの答えが導かれたと話されていました。
スマホが普及した現代、紙の書籍が減っていることを私は寂しく思います。14歳の時、古書の匂いのする本を手に取り1ページ目を開いた時に目に入った言葉から衝撃を受ける経験をした私にとって、人生の名著に出会えたきっかけを与えてくれたのが紙の書籍でした。本を手に取りページを開くことはかけがえのない貴重な人生体験だと思っています。また、砂の城の本を手に取る環境を与えてくれた両親家族にも本当に感謝しています。名著に出会う経験を積んだ後、今でも週末になると本屋に足を運び知的好奇心を駆り立てる興味深い成書を探しては知性向上を目指しています。砂の城の教えを忘れずに、これからも成書を通じて知性を高め、社会へ貢献できる人間として日々精進したいと思っています。
砂の城 遠藤 周作 著 主婦の友社発行 1976年
写真は今年2月の京都マラソン。タイムは5時間16分でした