乳房再建に新たな選択肢を 脂肪注入に関する現状と課題を講義 形成外科診療内容向上会・京都形成外科医会学術集会  PDF

レポート津下 到(京都大学)

 日々の診療において困った症例の相談の場として、3演題の症例提示と検討が行われた後、近畿大学医学部形成外科の冨田興一教授から特別講演をいただきました。「乳房再建における脂肪注入の基礎と応用」と題して、形成外科で扱う乳房再建手術の現状と今後の展望を示していただきました。乳がんで失った乳房を再建するための手術方法として、腹部や背部からの自家組織を用いた再建、2013年に保険適用となった人工乳房インプラントによる再建が多く選択されていますが、それぞれに長所と短所があります。患者との詳細な相談により適切な術式を決定しますが、大腿や腹部から吸引した脂肪を遠心分離し、精製した脂肪を注入する乳房再建法は新たな選択肢として注目されています。不安定な生着率から一時は行われなくなった手技ですが、採取法、精製法、注入法の工夫が重ねられ、徐々に安定した治療成績が得られてきています。その歴史と変遷について、実際の手術映像を用いながら解説いただくことで、具体的なコツも含めて伝授いただき、明日からの診療に役立つご講演でした。
 特に、今まではボリューム不足が欠点であった広背筋皮弁術について、移植筋弁内への脂肪注入付加による容量増加の工夫は、確立した術式をさらに進歩させる試みであり、目を見張るものがありました。さらに背部に傷跡を残さずに広背筋のみを胸部に移動し、脂肪注入の担体として用いる方法は、今後の乳房再建手術に新たな選択肢を与える可能性が考えられました。
 自家脂肪注入は現在、鼻咽頭閉鎖不全の鼻漏改善の目的のみが保険適用であり、乳房再建への適用拡大を目指した取り組みが日本形成外科学会と日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会を中心に続けられています。より安全で一般化された手術手技の確立により、患者が身体的にも社会的にも健康で自信を持って生活できるための医療提供が求められています。会場からは多くの質問が挙がり、森本尚樹会長(京都大学形成外科教授)からも「今まで疑問に思っていた部分が多く解決した気持ちで、すっきりしました」と言及されました。
 形成外科診療内容向上会および第72回京都形成外科医会学術集会が6月15日に保険医協会会議室で開催された。「乳房再建における脂肪注入の基礎と応用」と題して、近畿大学医学部形成外科学講座・冨田興一氏が講演した。参加者は28人。

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