調査権限強化になりかねない「電子保存」 1
難しいデータ保存要件
電子取引の取引情報に係る電子データの保存は全事業者に義務を負わせるものですが、その要件は厳しいものです。
要件は1システム概要に関する書類の備え付け2見読可能装置の備え付け3検索機能の確保4データの真実性を担保する措置―の4点です。1はシステムのマニュアル整備、2はデータ確認のためのディスプレイ・アプリを準備することであり、これはデータを確認する上でも必須のもの。ディスプレイやプリンタなどは性能・設置台数などは要件とされておらず、プリンタも整然とした形式で明瞭な状態で速やかに出力できれば画面印刷(いわゆるハードコピー)であっても認められます。
ただし、3と4については2023年度改正で保存方法の「適正化」(紙保存の余地)が図られました。しかし、新たに「ダウンロードの求め」への対応が必要になるため注意を要します。
ダウンロードの求めという罠
「ダウンロードの求めに応じられる状態で電磁的記録の保存等を行い、かつ、実際にそのダウンロードの求めがあった場合には、その求めに応じることをいうのであり、『その要求に応じること』とは、当該職員の求めの全てに応じた場合をいうのであって、その求めに一部でも応じない場合はこれらの規定の適用(電子帳簿等保存制度の適用・検索機能の確保の要件の緩和)は受けられないことに留意する」と国税庁は言います(一問一答)。100%調査官の言う通りにという訳です。
検索機能として求められているのは、@取引年月日その他の日付、取引金額その他の国税関係帳簿の種類に応じた主要な記録項目を検索の条件として設定A日付または金額に係る記録項目について、その範囲を指定して条件を設定B二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定です。これが改正で、@検索条件を「日付、金額、取引先」に限定し、「ダウンロードの求め」に応じる場合には、ABの検索要件は不要とされました。「その求めに一部でも応じない場合」は、この緩和策の適用はありません。
デジタル時代の税務調査
この緩和策は紙での保存に道を開くことから、一見望ましいようにも見えるのですが、実は税務調査では納税者不利の要素になりかねません。つまり、今後の税務調査は帳簿・書類のデジタル化を前提として行われることを意味し、実際の税務調査においては、パソコン画面を通して行われることになるでしょう。税務職員の調査技法も変化することにしたがって、納税者サイドの対応策も変化せざるを得なくなることが十分に予想されるのです。