2024年4月1日より各都道府県は6年1期の第8次医療計画の期間に入った。
今次医療計画は改正感染症法(2022年)を踏まえた「感染症予防計画」が盛り込まれ、公衆衛生行政に地域の医療者に参加を求める枠組みを作る点で重要である。だがそれは国の「本線」ではない。国の医療制度構造改革の本線は「都道府県単位の医療費管理・抑制」システム構築とその下での「医療費の地域差縮減」にある。その意味で4月にスタートした医療計画は未完成であり、肝心のバージョンアップは期中の2025年以降に実行される。
注視すべきは「新たな地域医療構想」と「かかりつけ医機能報告制度」である。
新たな地域医療構想の射程
― 外来・在宅・介護も
現在の地域医療構想が2025年に目標年度を迎え、続いて2040年をめどとした「新しい地域医療構想」が予定される。厚生労働省は「新たな地域医療構想に関する検討会」(座長・遠藤久夫氏)を設置、2024年末のとりまとめに向けた検討を進めている。2025年の「ガイドライン」発出が目指されている。
地域医療構想は国が一律の算定式で弾き出した「2025年の医療需要」に基づく「二次医療圏(構想区域)ごとの機能別(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)必要病床数」を目標として都道府県が策定する。病院・有床診療所は病床機能報告を義務付けられ、「地域医療構想調整会議」で「自主的な」目標達成に向けて協議し、都道府県は「地域医療介護総合確保基金」を活用し、必要なら「権限の行使を含めた役割」を適切に発揮する仕組みである。
2025年を目前に国はその「達成」状況を、病床数・病床機能のいずれも「必要量」に近づいていると評価する一方、いまだ乖離が残る区域を「重点支援区域」「再編検討区域」に定めて集中的に「支援」し、「基金」「病床機能再編支援事業」や税制上の優遇措置等、財政インセンティブ策を駆使して達成を目指させる構えである。
その一方、国は「新たな地域医療構想」の「課題・検討事項」として、現在の地域医療構想は「病床の機能分化・連携」を取り扱っているが「外来や在宅医療等を含めた、医療提供体制全体の議論が不十分」である。ついては「外来、在宅、看取り、医療従事者等」の将来推計も「検討する」という。「新たな地域医療構想」は「病床」を超え、外来・在宅・介護サービスを射程に入れたものとなる見通しである。
新たな地域医療構想で
「必要かかりつけ医数」目標化の可能性
以上を踏まえれば、2025年開始予定の「かかりつけ医機能報告制度」はどのような意味を持たされることになるだろうか。
国はこの間、外来・在宅に力点を置く医療法改正を繰り返してきた。その一つである「外来機能報告制度」は2022年4月に開始した。同制度は病院・有床診療所(無床診療所は「任意」)に対し「病床機能報告」に加え、@医療資源を重点的に活用する外来の実施状況1を報告A紹介受診重点医療機関となる意向の有無を報告B「地域の外来機能の明確化・連携の推進のために必要なその他の事項」(紹介率や逆紹介率等)の報告―を義務付けた。報告内容は「協議の場」で「紹介受診重点医療機関の取りまとめに向けた協議」と「外来機能の明確化・連携に向けた協議」に用いられる。
一方、国は「かかりつけ医機能」を「身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置その他の医療の提供を行う機能」と法律で定義し、その上で「かかりつけ医機能報告制度」を創設した。これは病院・診療所が自らの外来における「かかりつけ医機能」を都道府県知事に報告する仕組みである。
報告内容は@日常的な診療の総合的継続的実施A休日・夜間等の対応B入院先の医療機関との連携、退院の支援C在宅医療の提供D介護サービス等との連携―とされ、詳細は法改正後の「省令」に委ねられている。報告を受けた知事は医療機関の機能を「確認」して公表。報告内容はこれもまた外来機能報告制度の「協議の場」で活用される。
現在、国は「国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討会」(座長・永井良三氏)とその下に「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」を設置し、施行に向けた詰めの論議を行っている。
国の外来機能分化は地域の外来医療について医療資源を集中的に投入する外来=「紹介受診重点医療機関」と「かかりつけ医機能を担う医療機関」に再編する構想である。「新たな地域医療構想」には、必要病床数と同様、国の一律の計算式による「機能別外来医療機関数」が目標設定される可能性が高いと考えられよう。
かかりつけ医機能報告
報告内容をめぐる議論
5月24日に開催された第5回分科会で、厚労省は「報告を求めるかかりつけ医機能の内容」の案を初めて示した。
報告を行う対象医療機関は「特定機能病院および歯科医療機関を除く、病院・診療所」とされる。
報告内容は「1号機能」(継続的な医療を要する者に対する発生頻度が高い疾患に係る診療その他の日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能)と「2号機能」(@通常の診療時間以外の時間に診療を行う機能A入退院時の支援B在宅医療を提供する機能)に大別され、1号機能のある場合に2号機能を報告させる。
1号機能の具体的な報告事項については3案が提示されている(表)。
案1、一定以上の症状に対して一次診療を行うことができる。併せて35項目の症状ごとの対応可能の有無を報告させる。
案2、診療領域ごとの一次診療の対応可能の有無、いずれかの診療領域について一次診療を行うことができる。かかりつけ医機能研修の修了者の有無等を報告させる。
案3、かかりつけ医機能に関する研修の修了者の有無、受講者の有無、総合診療専門医の有無について報告させる。
2号機能については、「通常の診療時間外の診療」「関連する時間外対応加算の届出状況、算定状況」「入退院時の支援」「在宅医療の提供」「介護サービス等と連携した医療提供」「その他の報告事項」とされた。
分科会では三つの提案について、意見が分かれている。総じて患者団体は症状の方が分かりやすく、医療側は診療科の方が良いとの立場である。
新たな地域医療構想とかかりつけ医機能
報告が流れ込む先には「開業規制」
論点となっているのは「診療領域」か「症状」である。だがそれを決するのは「どちらが国にとって望ましいか」という点に尽きるだろう。
なぜなら国にとって「かかりつけ医機能報告制度」は取得したデータを活用し、「必要かかりつけ医数」を地域医療構想に目標化させるための仕組みであると考えられるからである。そしてこの「必要数の設定」こそ地域の外来医師数へのキャップとなる。このように新たな地域医療構想とかかりつけ医機能報告が結びつき、流れ込む先は「開業規制」である。そのように捉え、警戒すべきである。
財務省は建議書「我が国の財政運営の進むべき方向(2024年5月21日)」で「病院と診療所の偏在」を問題視し、「病院勤務医から開業医へのシフトを促すことのないよう、診療報酬体系を適正化していく」とした。新たな地域医療構想が「開業医数の適正化」の手段となる危険性は高い。(政策部会)
1 入院の前後の外来(診療報酬上のK:手術、J:処置、L:麻酔コード等を算定する医療)や、高額等の医療機器・設備を必要とする外来(診療報酬上、外来科学療法加算、外来放射線治療加算等を加算する医療)、そして特定の領域に特化し、紹介患者に対応する外来の患者延人数、実施件数とその詳細。
(表)1号機能
案1
一定以上の症状に対して一次診療を行うことができる
→次の35項目の症状ごとの対応有無も報告。下線は必須
全身倦怠感、不眠、食欲不振、体重減少・体重増加、浮腫、リンパ節腫脹、発疹、黄疸、発熱、頭痛、めまい、失神、けいれん発作、視力障害・視野狭窄、結膜の充血、聴覚障害、鼻出血、嗄声、胸痛、動悸、呼吸困難、咳・痰、嘔気・嘔吐、胸やけ、嚥下困難、腹痛、便通異常(下痢・便秘)、腰痛、関節痛、歩行障害、四肢のしびれ、血尿、排尿障害(尿失禁・排尿困難)、尿量異常、不安・抑うつ
→「可」の報告の場合は「1号機能を有する医療機関」として、2号機能の報告を行う。
案2
@ 「具体的な機能」を有する、「報告事項」を院内掲示する
A かかりつけ医機能に関する研修修了者または総合診療専門医がいる
B 17の診療領域ごとの一次診療の対応可能の有無、いずれかの診療領域について一次診療を行うことができる
C 17の診療領域ごとの患者からの相談の対応可能の有無、いずれかの診療領域について患者からの相談に応じることができる
→(基本領域)皮膚・形成外科領域、神経・脳血管領域、精神科・神経科領域、眼領域、耳鼻咽喉領域、呼吸器領域、消化器系領域、肝・胆道・膵臓領域、循環器系領域、腎・泌尿器系領域、産科領域、婦人科領域、乳腺領域、内分泌・代謝・栄養領域、血液・免疫系領域、筋・骨格系および外傷領域、小児領域
→@〜Cのいずれも「可」の報告の場合は「1号機能を有する医療機関」として、2号機能の報告を行う。
案3
@ 「具体的な機能」を有する、「報告事項」を院内掲示する
A かかりつけ医機能に関する研修修了者の有無、受講者の有無、総合診療専門医の有無、それぞれの人数
→@が「可」の報告で、Aを報告している場合は「1号機能を有する医療機関」として、2号機能の報告を行う。