京都の観光問題を考える2 観光公害と京都ブランド 辻 俊明(環境対策担当理事)  PDF

B 令和時代の付加価値 心揺さぶられるものに価値あり

 バブル崩壊直後の1990年代から続く「失われた30年」。わが国での経済成長が長期にわたり停滞、もしくは微増にとどまる原因についてはさまざまな指摘があるが、無形資産への投資を怠り、付加価値を与えてこなかったことも原因の一つとされる。これは薄利多売の価値観から脱却できなかったことでもある。
 令和の時代、お仕着せの流行に左右されず、自分の好きな対象をとことん掘り下げる若者が増えている。個を犠牲にして経済成長に向け、集団でひた走った昭和の在り方はとっくの昔に終わり、自分の道を進みながら他者と穏やかなコミュニケーションを築く。そういう多様な価値が尊重される時代になった。
 言い方を変えれば理性より感性に訴えるもの、具体的なものより抽象的なもの、物質の奥にある個性、あるいは自分にとっての価値を追求し、それを高く評価するのである。この自分にとっての価値が付加価値である。
 今まで経験したことがないような体験、他のどこにも得られないような経験、ワクワク、ドキドキさせる、心が揺さぶられ、直感的に本物と感じられるもの。それらは抽象的であるが故に無限の価値を持つ。何にワクワクするかは人によって異なるが、歴史と文化に彩られた京都の街には本物の価値になり得るものが数多く存在する。これが京都観光における付加価値であり、京都ブランドである。何のためらいもなく、これらの付加価値を観光産業に与えることができれば、過剰なおもてなし合戦をする必要はなくなり、かつ薄利多売の安売り競争に陥ることもなくなるであろう。

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