鈍考急考51 原 昌平(ジャーナリスト)鉄道の土台に国費を投じよう  PDF

 人の移動、物の輸送は社会の維持・発展に欠かせない。日本でも交通網は年を追うにつれて整備が進み、どんどん便利になってきた。
 ――と言いたいところだが、本当にそうだろうか?
 確かに、高速道路の建設は進んだ。列島の骨格と主要な分岐は完成。近年は過疎地を含むネットワーク化と、新名神のような二重化が進む。
 航空では、関西、中部の開港や羽田の拡張が行われ、地方にも空港が増えた。
 鉄道はどうか。新幹線は九州、北海道、長崎にも走り、今年3月には北陸新幹線が敦賀まで延伸。リニア中央新幹線の工事も行われている。
 けれども大都市圏以外の在来線は、1987年の国鉄分割民営化の後、やせていった。新幹線が通ると、並行在来線は三セク化された。
 痛々しいのは北海道だ。国鉄末期の駆け込み廃線に続き、天北線、名寄本線、旧池北線など長い路線が廃止。札沼線、日高本線、留萌本線も一部が残るだけ。今年4月には根室本線の途中区間が廃止。新幹線が札幌へ延びると函館本線の長万部―小樽間も消える。もはや骨組みだけで、宗谷本線や石北本線も危うい。
 本州では能登半島の穴水以北や中国地方の三江線、九州では旧高千穂線が廃線。地方の私鉄も、いくつも消えた。
 不採算路線を含めて事業全体の収益で鉄道網を維持するという、分割民営化時の中曽根内閣の約束は、ウソっぱちもいいところだった。
 そもそもJR北海道、四国、九州で鉄道の黒字経営は無理だ。一方で大きな利益を得ている東日本、東海、西日本は営利指向を強め、芸備線、大糸線をはじめ、ローカル線の切り捨てを図っている。
 国土交通省が設置を促すJRと自治体の協議会は、廃線か、大幅な地方負担による維持かを迫ることになる。
 弱っている地域に金を出させて、さらに弱らせる。
 鉄道は、移動先の自由度は低いものの、運行時刻の安定性、長距離移動、輸送力、省エネ、低炭素などの利点がある。何よりも、車を使えない子ども、学生、高齢者、低所得者などが利用しやすい。バスに比べ、乗り心地も勝る。
 道路の建設・維持には、多額の国費・公費が投じられている。自動車の事業者は、その上を走らせる。空港、港湾も公共インフラだ。
 鉄道会社の多くは、自前の用地に線路を敷いて維持することを含めて、採算を求められる。そのうえで自動車交通と競争することになる。
 鉄道の土台に、道路並みの国費が投じられるなら、経営はずいぶん違ってくる。
 2001年の省庁再編で運輸省と建設省を合体して国土交通省にしたとき、理由付けの一つは交通網整備の一元化だった。道路整備の目的税だった揮発油税も2009年度から一般財源化された。
 なのに、局ごとの縦割り、道路偏重の配分は変わっていない。建設土木工事の既得権益が根を張ったままだ。
 まさに政治の出番だが、世襲の議員はもともと東京生活。
他の議員も飛行機、新幹線、特急、クルマの移動が多い。
 「鉄ちゃん」の議員、地方を本気で愛する議員よ、動け。

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