医師が選んだ医事紛争事例 190  PDF

胃管を誤挿入し、気胸した事例

(90歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は陳旧性脳梗塞による嚥下困難と廃用症候群のため、A医療機関に入院した。入院当初は経口摂取であったが、誤嚥を起こしたため胃管による経管栄養に変更した。その後、状態が安定し、本件医療機関に転院となった。
 転院から約3カ月後、看護師が胃管の定期交換(1回/4週)のため訪床し、挿入部分が65pで固定されていることを確認後、挿入中の胃管を抜去した。その後、ギャッジアップして上体を60度起こし、左鼻腔よりスタイレット付き胃管12Frを挿入したが、約20pのところで抵抗があったため抜去した。再度、挿入を試みたがまたしても20pのところで抵抗があったため抜去した上で、上体をさらに10度起こし再々挿入を試みた。しかし30pのところで抵抗があり、いったん15p程抜き挿入すると、患者がむせることなく挿入できたため、65pのところで固定し、心窩部下で気泡音を聴取・確認した。その後、胃管先端の確認のためレントゲン検査を行うと、気管に誤挿入されていることが判明したため、胃管を抜去した。さらにCT検査により気胸を認めたため、B医療機関に転院となった。
 患者側は、医療機関側に対し今後の対応への見解を求めた。
 医療機関側は、医療過誤の有無は不明とした。
 紛争発生から解決まで約1年2カ月間要した。
〈問題点〉
 基本的には胃管挿入に伴う合併症と考えられ、誤挿入による気胸を確認後、速やかにB医療機関に搬送しており、一連の対応に特に問題点はない。また、高齢で嚥下障害や意識レベルが非常に低下している患者に対し、胃管の位置確認のため気泡音の確認だけでなくレントゲン検査を行ったことは評価できる。ただし、このような患者に対しスタイレット付き胃管の挿入は肺損傷のリスクが生じるという報告もあり、今回のケースでは太く柔らかい通常の胃管を選択する方が望ましかったとも考えられる。
〈結果〉
 クレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決とみなされた。
* * * *
 一般社団法人日本医療安全調査機構が2018年9月に発行した「医療事故の再発防止に向けた提言第6号・栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析」の「提言3」では、気泡音聴取の不確実性が指摘されており、スタイレット付きの胃管を使用するなど穿孔リスクの高い手技を行った場合はレントゲン造影で胃管の先端位置を確認することが望ましいとされている。

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