精神疾患患者への対応に苦慮 粘り強く築く信頼関係がカギ 医療安全講習会 具体的ケースで解説  PDF

 協会は「精神疾患が疑われ、対応に苦慮する患者とどうかかわるか」をテーマに第2回医療安全講習会を3月16日にウェブで開催。埼玉県立精神医療センター副病院長の成瀬暢也氏が講演した。本講習会は全国の保険医協会・医会会員医療機関にも参加を呼びかけ、221人が参加した。
 成瀬氏は統合失調症や適応障害などの各精神疾患の特徴や治療法などを紹介。精神疾患患者の背景には「人間不信」と「自信喪失」があり、患者は「生きづらさ」を抱えて孤独に苦しんでいるとして、人との関わりによって安心して本音を話せるようになると、人に癒され回復できると解説した。また、精神疾患患者の中でも対応が困難な患者の関わり方について、具体的なケースを挙げて次のように述べた。
暴力的・攻撃的な患者
 攻撃的な患者に対しては、暴力につなげないために、医療者は患者を叱責したり追い詰めたりせず、可能な限り複数人で落ち着いて対応することが重要である。患者が何に対して怒っているかを聞き取り、仮に理不尽な内容であっても、その気持ちを理解したことを患者に伝えることで患者は落ち着く場合が多い。暴力行為があった際には、躊躇せず警察に通報することが基本である。
無理な要求をする患者
 患者の要求に正当な理由があれば応じる努力が必要だが、安易に応じると要求がエスカレートするため注意が必要である。患者の要求に対応できない場合は感情的にならず、冷静にはっきりと断ることがポイントであり、その際に代替案があれば提案する。このような患者は医療不信を抱えていることに留意し、誠実な対応を心がけることが重要である。
クレーム繰り返す患者
 クレーム患者は人間不信に陥っていることが多く、見下されたくないという意識や被害感情が強いため、医療者の些細な言動にも警戒し反応する。このような場合は患者の訴えを否定せず、メモなどを取り真剣に受け止め傾聴する姿勢を示すことで、患者の不安を軽減させ安心感を与えることができる。医療者に非があったり修正が必要な場合は、不適切だった点を認めて謝罪することも重要である。
 最後に、精神疾患患者の回復を困難にしている最大の原因は、医療者・支援者の患者に対する誤解やスティグマ(偏見・差別)であると指摘。スティグマによって、患者は必要な治療・支援を受けられず、患者自身も自分に対しスティグマを持っているため自ら支援を求めることができないとし、その結果、患者は孤立を深め病状が悪化していくと解説した。
 医療者は精神疾患患者にスティグマを持たず、信頼関係を築くことを最優先にして、精神疾患を持たない患者以上に丁寧な対応を行わなければならないと強調。人間不信が背景にある精神疾患患者と信頼関係を築くためには、患者の持つ良心や回復する可能性を医療者が信じ続けることが重要とした。また、医療者自身も家族や友人などと信頼関係を持つことで癒されており、人から癒されている医療者が患者を信じ粘り強く信頼関係を築くことができると説明した。
 他にも、アルコール依存症患者を内科で診療する際のポイントなどについても解説した。

 ■本講習会の模様は期間限定で協会ホームページに掲載している。左記QRコードよりご覧いただき、医療安全研修に活用いただきたい。

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