主張 地域を支える基盤は人と資本 誰もが安心して住める街に  PDF

 武見敬三厚労大臣が医師偏在は規制で管理し是正する必要があると発言し、横倉義武元日本医師会長は即座に強制ではなくいわゆるインセンティブで誘導できる仕組みを考えてもらいたいと注文をつけた。
 世界保健機関(WHO)は2000年に日本の医療保険制度は総合点で世界一と評価した。世界に誇れる国民皆保険制度の下、医師たちは「フリーアクセス」「自由開業・標榜制」「診療報酬出来高払い」で健康長寿国日本を築き上げた。しかし医学発展による医療の高度化・高額化、高齢者増もあり医療費は増大してきた。加えて生産年齢人口減少と非正規雇用増加・賃金伸び率停滞などで、社会保険料収入は伸び悩み公費負担が増加、国の財政に負担をかけている。
 2019年の日本の対GDP保健医療支出は11%、OECD加盟38カ国中5位。厚労省は医療費増大を抑制している。地域医療構想調整会議で病院の自由開業・標榜制は制限され、包括払いも導入されている。選定療養費を用いたフリーアクセス制限も実施されている。外来診療でも包括払いの選択肢が拡大され、かかりつけ医制度によるフリーアクセスの排除も企てられている。無駄な医療費の抑制は必要だが、自分の望む医療を受けられなくなるとWHOに称賛された健康長寿社会はどうなるであろう? かえって重症化し医療費がかさむかもしれない。
 能登半島ではデイサービス事業所の3割で、輪島塗の全事業所で再開のめどが立たない。輪島市の新小学1年生は35%減、珠洲市飯田高校の新入生は半減し51人。地域の基盤産業の従事者や地域を支える人たちが将来地域を担う子どもたちとともに去っていく。
 財務省は復興に向け集約的な街づくりをしていくという。見捨てられ、いずれ消滅する街があるということだ。集中は必要だが、切り捨てはだめだ。万遍なく日本社会を発展させなければならない。
 医師偏在の是正は必須であるが、医師偏在を是正するだけでは人は安心して住めない。医師などの医療資源の偏在よりも人や資本の大都市への偏在が先行している。東京一極集中が止まらない。大都市では人口集中の結果、少子化・非婚化が進み、世帯人数は減少、単身世帯が増加している。近未来、急増した都市の一人暮らしの要介護高齢者が養鶏場のケージの鶏のごとく、ワンルームマンションで「包括化された」医療や介護を提供されている姿が目に浮かぶ。

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