今回の入院医療の改定は二つの特徴がある@専門医療から高齢者を排除するお墨付きを与えたA急性期病床の高度化推進―である。
急性期病床
@高齢者追い出しを懸念
高齢者の救急搬送に焦点が当てられた。3次救急医療機関等に救急搬送された患者が、連携する他院でも対応が可能と判断される場合には「下り搬送」を促し、これを評価する救急患者連携搬送料が新設された。転送先が受け入れ可能な疾患や病態リストが地域のメディカルコントロール協議会で作成される。救急医療管理加算の「その他重症な状態」の減算や医師の働き方改革の影響も必至で、2次救急を担う民間病院への影響は甚大だ。地域の救急医療体制が再編される。
急性期入院医療では平均在院日数が18日から16日に短縮。重症度、医療・看護必要度の評価項目からB項目を除外し、必要度に該当する患者割合を引き上げた。急性期一般入院料1を算定する200床未満の中小病院は2割前後が基準を満たさなくなる見通しだ。
新型コロナで表面化した高齢患者等の「留め置き」を総括し、年齢差別などへの歯止めが必要である。
A質の高い高齢者医療を支える報酬措置を
今回改定では従前のADL維持向上等体制加算(1日につき80点)を廃止し、入院基本料等加算としてリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算(1日につき120点)を新設した。急性期病棟では介護力・リハビリ力が十全でなく、搬入された高齢者が安静臥床を強いられ、ADL低下や介護度の悪化が生じていた。リハビリ・口腔・栄養の一体的提供が必要で専門職配置が必須であったが、厚労省は対応を怠ってきたと言わざるを得ない。「留め置き」問題の背景でもあり、ようやく重い腰を上げた形だ。
新設の加算では従前のADL維持向上等体制加算で求められたPT・OT・ST等のリハ専門職の配置に加え、専任の管理栄養士の配置を求めたが、さらに十分な報酬が必要である。
B地域包括医療病棟の看護ケアは十全か
高齢者救急に対応する専用病棟の評価として地域包括医療病棟入院料が創設された。看護配置は10対1で、急性期一般入院料1からの移行が想定されている。高齢者の救急受け入れや急性期医療を担う。
高齢者の急性期の病態は複雑で、重症化リスクが高く容態も急変しやすいなどの特徴がある。療養経過中に高度専門医療が必要になることも少なくない。高齢者の質の高い急性期医療には、せん妄対応や医療安全確保など手厚い看護ケアが必須である。看護配置の切り下げは不適切である。
C地域包括ケアでケアミックス病院の評価重視を
多疾患並存の自立困難な高齢者には急性期、回復期、慢性期にわたって安全・安心な医療・看護が提供される必要がある。地域においてアクセスが良いケアミックス型の中小病院等の医療資源を積極的に活かしたい。いたずらに縮小再編するのではなく、ケアミックス型病院を積極的に評価すべきである。
回復期病床
@在宅と急性期双方を支援する地域包括ケア病棟
地域包括ケア病棟では、40日以内の入院は評価を引き上げる一方、41日以上は大幅に評価を引き下げた。地域包括ケア病棟や在支病棟は介護保険施設の協力医療機関となる努力義務が課され、施設からの入院受け入れが評価された。高齢患者の入退院を地域で完結させる意図で、今後かかりつけ医機能の強化とペアで進んでいくと思われる。
Aアウトカム評価一辺倒の落とし穴
回復期リハビリテーション病棟でFIMなどによるアウトカム評価が義務化され、運動器リハビリテーションの単位数が低く設定された。改善効果が上がりにくい高齢者をリハビリから遠ざけることが危惧される。
改善には程遠い入院時
食事療養費の引き上げ
1997年以降据え置かれてきた入院時食事療養費が1食30円引き上げられたが、物価・光熱費等の高騰に全く追いつかない。治療に必須の費用を患者負担で引き上げるのも問題だ。採算割れの入院時の食事基準額の引き上げは当然だ。患者負担増ではなく保険給付分を引き上げるべきである。
急性期病床の高度化と
DPC改定
DPC対象病院は1786病院48万床となり、急性期一般入院基本料等に該当する病床の約85%を占める。DPC病床が少ない中小病院を制度から追い出す改定は地域医療に与える影響が懸念される。病院群別に設定されている基礎係数は、大学病院本院群:1・1182、DPC特定病院群(大学病院本院に準ずる機能を有する病院):1・0718であり、DPC標準病院群:1・0451との差は大きい。救急医療指数が「救急補正係数」(機能評価係数T・Uと同列の独立した係数)になった。救急医療管理加算の「その他重症な状態」の減算は救急補正係数を低下させ、中小病院の経営を圧迫する。診断群分類では入院初期の医療資源投入量評価に一層重点が移り、退院遅延による減算が大きくなった。急性期病院の在院日数を機械的に促進する。