風邪がはやっている。処方したい薬剤が目前にない。薬剤問屋に頼んでも、置き薬が切れたのか、届けてもらえない▼社会経済の動きは生産、貯蔵、運搬・売買、購入、消費の循環からなるもので、生産・流通が途絶えればどうしようもない。T―ドライシロップが当院の薬棚からなくなり、「冬場になればインフルエンザもはやると分かっていたのだから、早めに作り置きしてくれていたらよかったのに」と、小児科医の妻の機嫌が悪い。仕方なく成人用カプセルから抜き取り、乳糖を混合して分包し、何とかつじつまを合わせる。華岡青洲の時代に戻ったかのような工夫である▼保険薬価が毎回下がり、生産ラインを回せば、そのうち赤字となるのは当然の帰結で、一般診療所の小児科用など薬価の低い薬剤はついには生産できなくなる。そんな時代に達したようである▼薬価基準は厚生労働大臣が定める(健康保険法第76条2項、国民健康保険法第45条2項)が、適正にするため市場実勢価格が調査・算定される(健康保険法第77条、2022年2月9日保発0209第1号)。市場経済的には値下げして売買されるので、実勢納入価は通常保険薬価より安くなる。製造・販売業者の方からも、生産ラインを止めなくて済むよう毎回薬価基準を下げないでと陳情してもらう必要があろう。(卯蛍)
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