シリーズ環境問題を考える 164  PDF

COP28について思う
戦争の即時停戦 選択肢でない原発

 昨夏は暑くて長かった。日本の平均気温は過去最高を更新。世界ではイタリアで48・2℃、モロッコで50・4℃など記録的な高温が観測された。世界気象機関は2023年が史上最も暑い年になったと発表した。寄せ集めた新聞記事からは、今回のCOP28(国連気候変動枠組み条約第28回締約会議)は前年のエジプトに引き継いで、中東のドバイで23年11月30日から12月13日まで14日間にわたって開かれた。議長を務めるアラブ首長国連邦(UAE)のスルタン・アル・ジャベル気候変動特使はアブダビ国営石油会社のグループCEOで利益相反を疑われたが、産油国の反発を抑え、最終的には何とか合意文書を作成できた。
 COP28には加盟する198の国・地域が一堂に会し、今回の大きな議題「グローバル・ストックテイク(現状調査)」と呼ばれる各国の温暖化対策を総点検した。気温上昇を産業革命よりも1・5℃に抑える世界目標に正しく進んでいるか初めて評価するものだ。会議には各国の政府代表だけではなく、脱炭素に関わる企業やNGO・諸団体、日本からは岸田首相らが参加した。会議では気候変動対策として、これまでの石炭火力の「段階的削減(phase down)」から化石燃料全体を最終的に「廃止すること」を念頭に置いた「段階的廃止(phase out)」という言葉が話題となった。日本は約170基ある石炭火力発電所でアンモニアの混合燃焼を提唱、30年でなお石炭に19%依存する「ふりをする」温暖化対策で、後ろ向き国に贈られる「化石賞」をこれで4回連続受賞した。
 会議では1・5℃目標・脱炭素のために、30年までに再生可能エネルギーの設備容量を3倍にすることが提案され、日本を含む118カ国が賛同した。一方、米国が「原子力発電の設備容量を50年までに世界で3倍にする」と宣言し、日本を含む22カ国が賛同した。気候変動で将来最も多くのものを失うのは若者であり、また浸水被害を受けるのは島嶼国だと「気候正義」が叫ばれた。また「食」と「水」が温暖化の大きな問題として取り上げられ、世界全体で排出される温室効果ガスの14・5%は畜産分野に由来するとされていて、30年までに20年比で畜産分野からメタン排出25%削減と食品廃棄50%削減なども決まった。初日には温暖化による途上国の「損失と被害」基金の詳細ルールも詰められた。
 12月11日の交渉は大詰めを迎え、新たな合意文書が作成された。化石燃料についてはこの10年間に、当初の「段階的廃止(phase out)」から「脱却する(transition away)」という表現になった。1・5℃目標については、30年までに再生可能エネルギーの設備容量を3倍、省エネ改善率を2倍に「温室効果ガスを35年に10年比60%減らす」ことが合意された。
 環境汚染の元凶である現在進行中の「二つの戦争」の即時停戦が重要であることを取り上げてほしかった。また、脱炭素のため原発の許容が浮上したが、原子力制御や廃棄物処理の困難さや事故を考えると選択肢の一つにはなり得ない。温室効果ガスを35年までに19年比で60%減らすには、日本政府はエネルギー計画として、再エネの本格的拡大(30年までに3倍)、石炭・LNG火力発電・原子力発電の削減、エネルギー自給率の上昇を目指して、新たな計画を練り直さなければならない。個人的努力には限界があり、日本政府は真の脱炭素に向けて原発依存を止め、企業に忖度せず本気で対策を取ってほしい。
(環境対策委員 山本昭郎)

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