ことこと列車 ことことこっとんと、グルメ列車がゆく(平成筑豊鉄道)
九州の筑豊にはかつて多くの炭鉱がありました。石炭の積み出しの役割を担った網の目のような国鉄路線の一部が第三セクター「平成筑豊鉄道」として今に残ります。「ゆっくり走る こころゆたかな ことこと列車の旅。世界一ゆっくり走る列車になりたい」がキャッチフレーズの、シーズンの土日祝日のみ走る観光レストラン列車です(写真1)。沿線の食材を使ったフレンチのランチコースと車窓を楽しむ“ことこと列車”はJR筑豊本線の直方駅から日豊本線行橋駅までのろのろ走ります。
直方駅を出ると、“ぼたぼた”じゃなく“ちらほら”と目につくのがボタ山。郊外の盆地に出ると田んぼの向こうには九州百名山の筑豊のシンボル福智山(写真2)。続いて、映画「青春の門」の舞台になった香春岳。茸のような名の「かわらだけ」。
勾金まがりかね駅からは石灰岩の採掘による奇怪な風貌を臨みます。崎山駅手前の今川の右岸には、天保元年から日本酒を醸す林龍平酒造場の荘厳な造り酒屋の蔵と屋敷と煙突が水墨画のように佇みます。
山里の風景を眺めながら味わう料理は、アジアのベストレストラン50に選出された気鋭の人気料理人・福山剛シェフが地産地消にこだわった絶品のフレンチコース6品。ことこと走る里山田園風景、ことこと線路のBGM、しみじみサーブされてくるフレンチで、旅鉄、食べ鉄、飲み鉄の三拍子が揃った汽車旅です。
第3セクター400形気動車を改造した二両編成車両のデザインは水戸岡鋭治氏。床には幾何学模様の寄木を敷きこみ、パーティションや窓の目隠しには福岡の伝統工芸「大川組子」がふんだんに使われています。客室の天井の全長を飾る、ドイツ製ガラスを組み込んだステンドグラス。緑や茶を基調とした椅子などは、まさに“鄙には稀な”内装の贅。
車体は真紅のメタリック、沿線の風景が映り込むように全つや鏡面磨きとなっています。天候と光の加減で車体の色合いや風合いが様々彩々と変わるのが素晴らしい。車体のあちこちには、さまざまなパターンの「ことこと列車」ロゴがちりばめられています(写真3)。
列車の走行速度は15㎞/hから40㎞/h。里から山へ峠を越えて、のろのろ、ことこと、「ことこと列車」は走ります。
今回の推し地酒。
九州菊吟醸(林龍平酒造場、福岡県京都みやこ郡みやこ町)
“京都”の名がついた福岡県の郡。九州の名がついた豪気な酒は「くすぎく」です。
(ことこと列車 2022年9月乗)