医師が選んだ医事紛争事例 187  PDF

帝王切開で硬膜外カテーテル残存

(20歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 妊娠38週の患者は、本件医療機関にて腰椎麻酔・硬膜外麻酔下で緊急帝王切開を受けた。翌日、硬膜外カテーテルから薬液が漏出していたため、看護師は硬膜外カテーテルからの薬剤投与を中断し、当直医に報告した。当直医は感染などの観点からカテーテルの早期抜去が好ましいと考え、抜去しようとしたが、抵抗が強く途中で断裂しカテーテルの一部が体内に残存した。緊急帝王切開から約10日後、全身麻酔下で脊椎内異物除去術を行いカテーテルを抜去した。
 当初、患者側から特にクレーム等はなかった。しかし事故発生から3年後、患者側は後遺症の懸念が払拭されたため、あらためて、予定のなかった手術を受けなければならなかったことに対する補償を求めてきた。
 医療機関側は、メーカーによるカテーテルの断裂原因の調査で、製造上の不具合・異常などは認められなかったとし、手技上の過誤があると判断した。
 紛争発生から解決まで約2カ月間要した。
〈問題点〉
 硬膜外カテーテルを引き抜く際にカテーテルが損傷し体内に残存することは、合併症として、今回使用したカテーテルの添付文書にも記載はあった。事前にカテーテルが残存する可能性を患者に説明していなかった点は懸念が残るものの、ごく稀に併発しうる事象で医療機関に説明義務違反はないと考えられる。
 一方でカテーテルを引き抜く際、カテーテル内のコイルが広範囲(約7・5㎝)に伸びていることから、強い抵抗があったにもかかわらず無理に引き抜いたと推測され、カテーテル損傷につながったといえる。脊柱を後屈すると棘突起間が狭くなりカテーテルが挟まれることもあり、カテーテル刺入時と同じく側臥位でやや前屈位の状態で牽引するなどの試行も必要だったと考えられる。抵抗を感じた時点で無理に引き抜かず脊柱の肢位の変更やさらにCTなどで原因究明していれば、カテーテルを損傷せず抜去できた可能性も否定できなかった。
〈結果〉
 手技上の過誤を認めて賠償金を支払い示談した。

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