シリーズ環境問題 160  PDF

ライチョウケージ保護に参加してその①
朝食、散歩の見守り

 7月28日から29日、木曽駒ケ岳で行われている日本ライチョウのケージ保護「中央アルプスにおけるライチョウ野生復帰実施計画」に、携わっておられる中村浩志先生のご厚意で参加しましたので、その内容と感想を報告します。
 ニホンライチョウは北アルプスに多いほか、南アルプスなどにも少数います。その間の中央アルプスでは、50年ほど前に絶滅したとされます。全体では1980年代にはおよそ3千羽いたのが、2000年代初頭には2千羽以下に減ったとされ、2012年に環境省のレッドリストで、「近い将来、野生での絶滅の危険性が高い」という「絶滅危惧ⅠB類」に指定されました。
 乗鞍岳での長年のライチョウ研究から、日本のライチョウは孵化後1カ月間の死亡率が高く、その原因は孵化時期の梅雨による悪天候とキツネ、テンなどによる捕食であることが分かりました。そのため、ライチョウの生息する高山にケージを設置し、孵化したばかりの雛を母親とともにケージに収容し、雛が飛べるようになり、自分で体温維持ができるようになるまでの1カ月間、人の手で守る保護対策がケージ保護です。それはライチョウを日中にはケージから出し、外で自由に生活させ、夜にはケージに収容し捕食者から守ります。孵化した雛は、母親からどんなものが食べられ、天敵や悪天候にはどう対処したらよいかといった、厳しい高山で生きる術を学ばなければならないからです。
 1カ月間ケージ保護した後に、家族を放鳥します。雛は自分で体温維持ができるようになり、また十分飛べるようになり、捕食者から身を守ることがきるので、以後死亡することは少なくなります。
 朝、まずケージの中で朝食が始まります。ミールワーム、小松菜、コケモモなどを与えると雛たちは元気よく自分の好みの餌に群がり食べ始めます。家族により餌の好みは随分異なるそうです。食事が終わると午前のお散歩です。ケージを開放すると、母親に見守られながら雛たちが元気に飛び出します。そして自分たちのフィールドまで岩を乗り越え、ハイマツを潜り抜け移動します。その間母鳥は空からの天敵である猛禽類の捕食に備え、辺りを見回しながら歩いています。そして雛たちがフィールドで食事をしながら歩き回っている時は岩の上に登り、全ての雛の安全を確認しています。
 私たちは雛たちが岩の間に落ちたり、登山道を横切る際に登山者に誤って踏み潰されないように注意しながら、少し離れてついて行きます。そしてテンなどの地上からの天敵や空から襲ってくるチョウゲンボウなどの捕食者に注意しながら、彼らの危険を取り除く仕事をするのです。雛たちはガンコウラン(苔のような高山植物)、ハイマツの芽やその間にいる小さい昆虫を見つけ、一生懸命食べ続けます。その間も何度か空からの捕食者が現れますが、我々が肉眼で見つけるよりも早く、母鳥が警戒感をあらわにして、それを雛たちに伝えるところは鳥類の視力の良さに驚かされます。そして捕食者が近づいてくると我々はパンパンと手をたたき追い払います。
(京都府歯科保険医協会 副理事長 平田 高士)

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