新連載
いろんな所に行きたい。いろんな酒を呑みたい。いろんな列車に乗りたい。“趣を悠々と楽しむ遊び心”趣は鉄道に始まり酒に至る道。悠は優雅の優に通ずる道。変わり列車に乗った回想と魅力を更級日記のように綴る「乗り鉄ドクの趣楽悠遊」。
日本酒電車 隔離された呑み鉄空間列車(京阪電鉄)
初回は京都の幻の日本酒電車です。かつて京阪電鉄が2月と3月の日曜日に、4回限定で走らせていた特別企画の日本酒電車がありました。
2018年と2019年は4回、2020年は2月だけ2回運行されましたが、コロナパンデミックで以後は絶滅した伝説の「呑み鉄電車」です(写真1)。
車輛は普通電車で使用している6000系通勤型電車。片側のロングシートを指定席座席にして並んで座り、前の通路に長机を置いてテーブルとし、テーブルの前は人が自由に通れるようになっていました。各車両に酒瓶と氷が入ったワインクーラーと酒樽が置かれ、酒造会社の法被などのグッズが幼稚園のお楽しみ会のように壁に飾られていました(写真2)。
京阪三条駅を出発した日本酒電車は、途中の駅で定時運行電車をどんどん先に行かせます。走っているより停車している時間の方がずっと長いので、車内でゆっくりと飲み食いできます。ドアは中書島・淀・樟葉の駅でのみ開いて、トイレ休憩を兼ねてホームに出ることができました。樟葉折り返しで中書島終着のこの列車。隔離された車内でご馳走と美酒に興じる赤ら顔の乗客たちをホームから見た人々は異様に思ったことでありましょう。
お弁当はイル・ギオットーネ特製のイタリアンお重。日本酒に合うようにシェフが工夫した逸品でした。伏見の9蔵に京都の“神藏”の松井酒造が加わった10蔵元が選りすぐりの酒を提供し、酒をリクエストすると、蔵人がやって来て利き猪口に注いでくれます。黄桜、北川本家、齊藤酒造、佐々木酒造、招德酒造、宝酒造、玉乃光酒造、平和酒造、松井酒造、都鶴酒造の酒酒面々。搾りたての生原酒もあり、溜飲は下がり、気分は上がり、異次元の時空間でありました。実車されていた笹島シェフと松井社長とも、呑みながら直々にお話が弾みました。
京都市のふるさと納税の返礼品にもなっていた、この良い酔い電車の運行再開を心から願っている乗り呑み鉄です。
今回の推し地酒。神藏 純米大吟醸(松井酒造、京都)。伏見の伏水酒蔵小路と大手筋の油長さんの酒屋内の吟醸酒房油長で、伏見の酒蔵全部の日本酒を味わうことができます。
(京阪 日本酒電車、2020年2月乗)
村上匡孝(むらかみまさたか)プロフィール
大阪生まれ神戸育ち。兵庫県立神戸高校卒業
1983年 京都府立医科大学卒業 耳鼻咽喉科学教室入局
1991年 医学博士
主な勤務病院:京都府立与謝の海病院(研修医)、健保鞍馬口病院、松下記念病院、国立舞鶴病院(医長)、京都第一赤十字病院(副部長)
1997年 京都府立医科大学講師、米国Syracuse大学客員講師(1年間)
2001年 京都市立病院医長
2002年 京田辺市にて村上クリニックを開業