医師が選んだ医事紛争事例185  PDF

白内障手術で眼内レンズ偏位

(70歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は、右眼白内障により視力が0・3(矯正0・7)だったため、本件医療機関で白内障嚢外摘出術(以下、ECCE)を受けた。術後当初は0・5(1・0)と良好だったが、手術の約6カ月後、処方された眼鏡を装用しても疲れる、二重に見えるなどの症状が出現し、医師が診察したところ眼内レンズの偏位を確認した。そのため、さらに眼鏡レンズを変更し視軸の矯正を行ったところ、症状は改善した。
 その後、患者は受診したA医療機関で眼内レンズの偏位をあらためて指摘されたため、視力改善の目的でB医療機関を紹介され、そこで手術を受けた。本件医療機関の手術から約1年半後の右眼の矯正視力は1・2だった。
 患者側は、眼内レンズが偏位していたため見えにくく、眼鏡を二つも作らされた、もっと詳細で正確な診断をしてほしかったとして医療費などを請求した。
 医療機関側としては、白内障手術後に眼内レンズが偏位することはあるが、矯正視力が不良な場合や視野が狭くなる場合、再手術をすることは稀であり問題はない。手技について過誤があるとは考えなかった。
 紛争発生から解決まで約2カ月間要した。
〈問題点〉
 以下の点について、過誤が認められた。
 ①術前の説明:本件で実施したECCEは、白内障超音波乳化吸引術(以下、PEA)が普及する前に行われていた術式で、PEAに比べ角膜創が大きく、その分侵襲も大きくなり、乱視が強くなった原因の可能性がある。事故当時、一般的に白内障手術では小切開超音波白内障手術と眼内レンズ挿入術が行われており、侵襲の大きな術式を選択する場合は、その理由を患者に説明し承諾を得るべきであった。
 ②手技:本件では、術前にチン小帯の脆弱性を思わせる所見がなかったことから、術中にチン小帯にストレスがかかって断裂、または断裂が進行した可能性が高く、手術侵襲によって眼内レンズが偏位したものと考えられる。
 ③術後対応:手術直後の屈折度数より想定以上の強い遠視が認められたことから、担当医は術後の矯正視力が良好であったとしても、速やかに散瞳して眼内レンズの位置に異常がないか確認し、再手術や他医療機関の紹介をすべきであった。
〈結果〉
 医療機関側が過誤を認め、賠償金を支払い示談した。

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