シリーズ環境問題を考える 158  PDF

「二つの危機」に対処する

 ロシアによるウクライナ侵攻が2022年2月24日に始まって1年が過ぎました。戦争が環境破壊の最大の元凶であることは過去の歴史が物語っており、地球温暖化の主役のCO2をはじめとする温室効果ガスも大量に排出します。国際エネルギー機関(IEA)によると22年のCO2排出量は過去最高と報告されています。さらにウクライナ侵攻で、世界有数の穀物輸出国であるウクライナと世界第2位の原油・天然ガスを産出するロシアが、食料不足とエネルギー危機、物価の高騰を招き、国際社会に大きな影響を与えました。
 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は3月20日、第6次統合報告書を発表しました。世界は産業革命前からの気温上昇を1・5℃に抑えることを目指しているが、今のペースで温室効果ガスを排出し続ければ、30年までに排出限度に達する。1・5℃に抑えるには、25年までに排出を減少に転じ、35年には19年比60%を減らす必要があるとしています。
 国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、世界の主要国(G20)に40年までにCO2実質排出ゼロを求めています。日本は30年に46%削減、50年に実質排出ゼロを掲げていますが、40年目標はありません。30年目標の内容は、再生可能エネルギー36~38%、石炭19%、原子力20~22%、天然ガス20%、石油など2%、水素・アンモニア1%です。12年前に経験した原発事故の反省もなく、危険な老朽原発20年延長の原発回帰、脱炭素に反する石炭・天然ガス発電が半分以上を占めています。岸田内閣は「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」で150兆円の投資先を水素・アンモニア燃料開発に定めています。実用化やコストの程度、開発年数などは不明で、40年目標には間に合わないのは明らかです。世界の流れから何周も後れを取っている日本です。
 報告書は既存の技術を活用すれば「1・5℃目標」は達成可能とし、中心的技術として再生可能エネルギーを挙げています。日本も今後、原発回帰を止め、脱炭素を推進、太陽光・風力発電を中心にした再生可能エネルギーの普及60%を国の基本政策にすべきです。
 カナダ・モントリオールで22年12月「生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)」が開催され、生物多様性の損失をくい止め、回復する対策が合意されました。「30 by 30」、いわゆる30年までに世界の陸と海の少なくとも30%を保全することや外来種の侵入速度を50%減らす目標数値を掲げ、農薬などのリスクを半減させ、プラスチック汚染を削減するとしました。
 19年に発表された地球規模評価報告書によれば、ここ数十年の間に評価された動植物の約4分の1、100万種が絶滅の恐れがあり、人間の活動によりこの10数年で湿地85%、珊瑚礁が50%、陸域の生物相の20%が失われて、生物多様性と生態系の悪化が続いているとのことです。私たちが排出するCO2の半分近くを海洋や森林などが吸収しています。他方、生物多様性の減少と生態系の悪化の主要な原因の一つが気候変動です。二つは絡み合っていて、私たちは「気候の危機」と「生態系の危機」という二つの危機にどう対処するか迫られています。同時に解決するには、世界中の人が自然と共存・調和する原住民思想を学び、危機を克服する強い意志と実行力が必要です。
(環境対策委員 山本 昭郎)

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