【主張】患者対応に困る事例 協会シンポをぜひご参考に  PDF

【主張】患者対応に困る事例 協会シンポをぜひご参考に

医療安全シンポジウム「患者さん対応に困ったケース―守秘義務等について―」を来る3月9日に開催する。

患者側の期待と医療従事者の予期とに反する不良な結果の原因をどう適確に説明し得るか。以下の相談事例はどうか?「70歳代女性が転倒して大腿骨頸部骨折を受傷し、人工骨頭置換術を受けた。1年ほど前に腰痛で受診し、骨粗鬆症による椎体の圧迫変形もあり、ビスホスホネート系のR剤が処方されたが、通院治療は次第に途絶えた。今回の骨折で、ホームページなどを調べてか、『あの時にきちんと説明をして、もっと強く薬の服用を勧めてくれていたら、服薬を続け、少なくとも4割の確率で骨折しなかったはず。医療費の4割や慰謝料を払うなど誠意を示せ』と、代理で家族が苦情を申し入れた。病院にそんな責任が生じるのか」注)

「服用すれば4割の確率で骨折が防止できる」との根拠論文(Mc Clung MR,et al.N Engl J Med 2001;344:333-40)を取り寄せ検討した。70歳代女性の大腿骨頸部骨折の発生率が、3カ月毎に3年まで図表に掲載され、3年の時点でプラセボ(偽薬)投与群(n=1821)3・3%、R剤投与群(n=3624)1・9%で、相対リスク減少は、(3・3−1・9)/3・3=0・42と確かに約4割であり、統計的に有意な減少でもある(log‐rank法)。ただし、80歳代群には有意差はない。そこで、ある1人について、服薬しておれば骨折せずに済んだと言えるには、何人の人に予め服薬・治療しておく必要があったかの、治療効果発現必要症例数(Number needed to treat:NNT)を求めると、絶対リスク減少の逆数なので、NNT=100/(3・3−1・9)=71・4人となる。つまり、服薬・治療をしなかった者が71・4人いるとその内の1人はそれによって骨折することになるので、1人が骨折したことへの非服薬の寄与度は1/71・4=0・014となり、決して4割ではない。

次に、いつまで服薬すれば発生率に有意差が出るかを計算すると、2年3カ月以降3年までとなり、2年以下では差がない。有意な予防には最短2年3カ月間の服薬を要し、1年間の処方の懈怠と骨折発生とには因果関係がない。医事紛争の予防・解決に統計学的検討を要する事例である。

医療の安全確保の参考に、協会シンポジウムに是非ご参加下さい。

 注) メルマガ2012年8・9月号、知恵袋・相談コーナー19より:法学者の回答あり。掲載ホームページへは検索エンジンで:比較法研究センター→医療と法ネットワーク→研究成果・情報提供→トラブル相談。

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