医師が選んだ医事紛争事例 177  PDF

前立腺生検時に血腫発生

(50歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は前立腺がんの疑いがあったため、本件医療機関で経直腸的前立腺生検を受けた。しかし実施後に肛門から下血が持続するため、主治医がCT検査を実施したところ、横行結腸まで続く血腫を認めた。そこで仙骨硬膜外ブロック下で経肛門的に縫合後、患者を入院させた。なお、経直腸的前立腺生検の穿刺箇所は8カ所+左右PZ(Peripheral zone:前立腺辺縁域)で、その内の1カ所からがんを認めた。がんはグリソン・スコア3+3で、放射線治療をすれば生命に別状はないものであった。
 患者側は、医師が生検の際に動脈損傷させたことが医療過誤だと主張し、休業損害などを請求してきた。また、検査は日帰りの予定であったが、事故により4日間の入院となり、仕事の変更を余儀なくされたと憤りを感じていた。
 医療機関側としては、肛門からの出血に関して同意書で説明しており、血腫ができたことは合併症として医療過誤を否定した。
 紛争発生から解決まで約2年11カ月間要した。
〈問題点〉
 診断・適応・手技・事後対応に問題は認められなかった。ただし、同意書はおそらく十数年前からその内容が変更されておらず、事故当時の医療水準からすると説明不足になり得るものと言える。しかしながら、がんが発見され救命できたことを踏まえると、結果的には生検が適応ともなり得たことから、生検を受けないといった合理的な患者の選択権が奪われたとまでは言えず、説明義務違反は問えないと解された。したがって、医療過誤は否定された。
〈結果〉
 医療機関側が院内・院外調査の結果から、医療過誤がないことを患者側に丁寧に説明した。その後、患者側からのクレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決と見なされた。

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