安保3文書改定と原発回帰に談話 国民的議論なき決定に抗議を表明  PDF

 協会は岸田政権による安保3文書の改定と原発推進方針に対し、談話「日本の平和を危うくする安全保障政策改定に強く抗議する」「国民的議論なき原発回帰に強く抗議する」を発表した。前者は反核京都医師の会、九条医療人の会との連名、後者は反核京都医師の会との連名。

談 話
日本の平和を危うくする
安全保障政策改定に強く抗議する

 岸田政権は新たな政府の外交・安全保障政策の指針となる「国家安全保障戦略」や「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の安保関連3文書の改定を12月16日に閣議決定した。相手国のミサイル発射拠点などをたたく反撃能力の保有を明記し、2027年度に防衛費をGDP比2%に増額する方針も掲げた。
 私たちは、この国の平和を危うくする「反撃能力(敵基地攻撃能力)」保有や大軍拡への政策転換を断固容認できない。
 ロシアのウクライナ侵略や東アジア情勢の変化を見れば「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」に直面していることは理解できるし、防衛力整備には国民も一定の理解を示している。しかし、憲法9条に基づく「必要最小限度の自衛力」と「専守防衛」から明らかに逸脱するような、他国をミサイルで攻撃する能力を持つことが、果たしてその解決につながるのか。「抑止力」は相手を上回る攻撃力を持たねばならず、際限のない軍拡競争を助長し、かえって攻撃の口実を与えてしまう。
 また「反撃」は、集団的自衛権により米国への攻撃も対象とされ、他国の戦争に巻き込まれる恐れが強まる。さらには「攻撃着手」の判断次第では国際法違反の先制攻撃にもつながる危険も孕む。
 防衛費増額については、いかなる整備が必要かの中身が詳らかにされず、米国の求めるGDP比2%を念頭に5年間で総額43兆円という枠組みだけで走ろうとしている。その財源も二転三転し、増税だけでなく岸田首相が否定していた国債発行も行うという。防衛費が無条件に優先され、一方でますます国民の生活や社会保障費が後景に追いやられてしまう。2023年度予算案では防衛費捻出のために、国立病院機構、地域医療機能推進機構(JCHO)の積立金約750億円が前倒しで国庫返納を迫られ、「子ども予算倍増」も先送りされた。
 安倍政権下では、米国主導の世界秩序の維持に積極的に貢献する体制づくりと、その障害とみなされる憲法改変の策動が行われてきた。その延長線上に岸田政権の動きはある。米国の戦略に追随するだけで平和を維持できるのか、他国民の生命を奪う能力を保持する戦争のリアリズムを語れているのか。今こそ熟議が必要なときである。
 そして、何よりも日本の行く末を決める大転換にあたって、国民的議論はおろか尽くされるべき説明さえなく、国民が置き去りにされていることに強い憤りを覚える。
 必要なのは「力には力を」の政策ではなく、憲法9条に基づく平和外交により、絶対に戦争を起こさせないことへの構想と尽力である。命を守ることを使命とする医師の団体である私たちは、戦争への道を開く今回の決定に強く抗議し、国民の熟議をもって撤回することを要求する。
2023年1月10日
京都府保険医協会
核戦争防止・核兵器廃絶を訴える京都医師の会
「九条の会アピール」を支持する京都医療人の会

談話
国民的議論なき原発回帰に
強く抗議する

 岸田政権は原発の新規建設や60年を超える運転を認めることなど原発を積極的に活用する方針に転換した。「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」として、12月22日に取りまとめた。
 政策転換の柱の一つは、原発の新規建設である。福島第一原発事故後の「可能な限り依存度を低減」としていた方針を転換し、「将来にわたって持続的に原子力を活用」するため、「次世代革新炉」の開発・建設に取り組む。まずは廃止決定した炉の建て替えを具体化し、その他の地域についても「検討していく」とした。
 もう一つは、原発事故の教訓をもとに原則40年、最長20年延長を認めるとした運転期間のルールの変更である。審査などで停止した期間を運転期間から除くことで、60年を超す運転も可能にする。1回に限り最大20年延長できるという規定も、当初は「例外中の例外」とされていたものであり、なし崩し的に常態化し、それさえも超える運転を認めるというのである。
 今方針にあたり、脱炭素への対応を強調し、ウクライナ危機に伴う燃料高騰や電力需給ひっ迫を理由にあげて、足元の危機を乗り切るためにも再生可能エネルギーとともに原子力を「最大限活用する」という。「事故への反省と教訓」を忘れず、安全性を最優先するというが、本当にそうか。
 「次世代革新炉」というが、安全性も経済性もどれだけ検討されているのか全く不明である。運転停止中の原子炉は劣化が進まないというのは、あまりに安全性の軽視ではないのか。使用済み核燃料や放射性廃棄物の処分については、いまだ道筋さえ見えていないままでいいのか。何より一たび重大事故が起これば制御できなくなることを忘れたわけではあるまい。福島の廃炉作業さえ遅々として進んでいないのに、何を教訓とするというのか。
 岸田首相が検討を指示した8月下旬からわずか4カ月、国論を二分してきた問題の転換を、国民に問うことなく科学的根拠も示さないまま取りまとめることに、私たちは断固容認できない。
 生命と健康を守ることを使命とする医師の団体である私たちは、科学的根拠のない原発回帰の方針転換に強く抗議し撤回を求めるとともに、再生可能エネルギーを基盤とするエネルギー政策を推進することを要求する。
2023年1月10日
京都府保険医協会
核戦争防止・核兵器廃絶を訴える京都医師の会

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