私の旅行記 木次線 トロッコ列車「奥出雲おろち号」の鉄旅 村上 匡孝(綴喜)  PDF

 奥出雲地方はヤマタノオロチ伝説で知られる神話の舞台です。出雲の国宍道から備後の国備後落合まで奥出雲を縫って大気と風の中をゆっくり走る列車紀行です。
 出雲から山陰本線をやってきたおろち号は宍道駅で方向を変えて木次線に入ります(写真1)。機関車、客車、トロッコの3両編成で、座席は客車とトロッコに同じ座席番号の席が確保されていて、外の空気を満喫してもよし、室内でゆっくり食べてもよし。停車駅ではホームの売り子さんが特色ある地元の味覚を勧めてきます。木次駅ではアイスクリームや焼き肉弁当が名物でした。トンネルに入って真っ暗になると天井にはヤマタノオロチが明るく浮かびます(写真2)。
 列車は奥出雲の村々を繋いで進みますが、出雲八代やしろではクリーム大福。出雲三み成なりでは仁多牛べんとう。仁多米(こしひかり)と仁多牛を奥出雲の名水で炊き込んだ牛肉弁当はご馳走の車内食となりました。やがて松本清張の「砂の器」で有名な亀嵩駅に到着します(写真3)。駅舎は扇屋そばとして駅長が打つ手打ちそばが有名で、山芋と温泉卵でいただきます。亀嵩駅そば弁当と、次の駅、出雲横田の笹寿司を夕食向けに購入しました。ここの笹寿司は海老・鮭・鯖・鰻・蟹・蛸の6種類、金沢の笹寿司より塩は薄く酢も甘めです。次の八川やかわ駅では売り子からトロッコそば弁当を求めます。舞茸をたんまりあしらった出雲そばは午後のおやつにしました。列車はやがて明泉・延命水が湧き出る盆地、出雲坂根駅に着きます。漂う煙と芳しいにおいに迎えられました。ここは売店の焼き鳥が名物なのです(美味)。
 さあ出発進行。これから鉄っちゃんお待ちかねの三段式スイッチバックで山の斜面を登ります。2カ所(2回)運転士が前から後ろに車内を移動して進行方向を前に後ろに変えていく…。ドラマがありました。
 終着駅の備後落合がたまりません。出雲(木次)からの木次線が広島と新見を結ぶ芸備線と繋がるこの駅(写真4)は、かつては蒸機の休息と入れ替え、物資の集散、流通基地でした。名物おじさん(永遠の鉄道マン)がおられて次の列車が来るまで楽しい昔話を語ってくださいます(写真5)。往年の名残と遺物を観て聞いて、駅長の帽子を借りておろちと記念写真(写真6)。これから芸備線で新見に出て伯備線スーパーやくもで岡山へ向かうのです。
 木次線も芸備線も廃線の対象です。味がある至高のローカル鉄道の汽車旅。限りある浪漫と風情、溢れる旅情。乗るなら今のうちです。(2020年9月完乗)

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