医師が選んだ医事紛争事例 174  PDF

受診勧奨もカルテに記載を

(60歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は胃痛で本件医療機関を受診した。担当医は触診時に、右脇腹周辺にヘルペスでの帯状疱疹皮疹を認めたため、アラセナAR軟膏を処方した。その際に、担当医は患者に、症状が改善しなければ皮膚科受診を勧めたが、その旨をカルテに記載しなかった。なお、内服用抗ウイルス薬を投与すべき症例であったが、患者はクレストールRの薬疹の既往があり内服薬の副作用を極度に恐れて拒否したので、軟膏以外の処方が不可能だった。患者は3日間軟膏を塗ったが、受診から4日後に極度の痛みが生じそれに耐え切れず、その翌日にA医療機関の皮膚科を受診した。そこで「これはひどい」と医師に言われ、点滴と内服治療が開始された。A医療機関での治療は5回の点滴で終了となったが、痛みが残存するためにBペインクリニックを紹介され、点滴治療を継続した。なお、患者は高脂血症とうつ病の既往があった。
 患者側は、本件医療機関の医師から他医療機関への受診勧奨に関する説明は一切受けておらず、医師への信頼を裏切られたとして、他院での治療費と通院日数分の慰謝料・後遺障害慰謝料などを請求してきた。
 医療機関側としては、皮膚科受診を指導したことは記憶にあるが、カルテ記載を怠っているので説明義務違反に相当するか否か判断できなかった。また、患者の内服薬服用への極度の拒否とヘルペスでの皮疹状態から見て、受診時点では必ずしも軟膏のみの処方が不十分だったとは言えないと考えた。
 紛争発生から解決まで約1年10カ月間要した。
〈問題点〉
 患者が強く内服薬の処方を拒否したため軟膏のみの処方となったが、本来ならば軟膏のみでは不十分と考えられる。しかしながら、今回は患者の極度の薬剤に対する拒否反応から、医師が軟膏のみの処方に留めたのはやむを得ないと考えられる。カルテ記載がないことは問題であったが、医師が皮膚科受診を促すなどの療養指導をしたことは、他の医療従事者も立ち会っており証人はいる。医療機関側の主張に医学的にも矛盾や不自然な箇所は認められなかった。説明義務違反も認めず、医療過誤は否定された。
〈結果〉
 患者側に医療過誤がないことを丁寧に説明したところ、患者は納得して本件医療機関に通院を継続したので、紛争状態については解決と見なされた。

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