京都府では新型コロナウイルス感染症第6波、第7波において介護、社会福祉施設の「留め置き死」が発生した。協会には会員から切実な訴えが寄せられた。介護施設からも感染入所者が入院させてもらえないという訴えが相次いだ。マスメディアでも報道され、府議会では京都府入院医療コントロールセンターの入院可否判断に疑問を呈する質疑が行われた。社会問題化したのである。
当初から、病床や人工呼吸器などが不足する際の医療提供を倫理的課題としてとらえ解決の方向が模索されてきた。わが国では老年学会の提言(2020年)などがあり、諸外国の議論も多々紹介された。
第5波で医療がひっ迫した際に、東京や大阪で高齢者の死亡率の増加が観察され、現実の課題として認識された。これに対して政府は、空床確保のために入院トリアージを行うという方針を打ち出したが、入院制限が「留め置き死」のリスクになることに十分な留意をしたようには思えない。こうしたことが各都道府県における入院病床や医療従事者の確保が十分ではなかった背景にある。
診療現場は医療資源の不足によるトリアージ対処に直面した。「医師として超えてはならぬ一線が足の先まで近づいている」(犬養楓著『救命』書肆侃侃房)。この短歌には救急救命医が直面した倫理的葛藤の心情が吐露されている。
「留め置き死」は新型コロナウイルス感染症の倫理的法的社会的課題の一つである。倫理的な判断を現場の医師任せにせず、チームとして対応し、組織的な支援体制を整備すべきだ。協会が求めている「入院調整に際しては陽性診断した医師とコントロールセンターの医師が直接協議する仕組みの導入」はそうした試みの一環である。解決に向けて京都府の豊富な専門的人材を活かすべきだ。
第8波に至る今日まで、京都府で「留め置き死」のデータの収集と公表、取り組みの振り返りが行われた記録は見られない。協会は京都府知事に対して、第三者の専門家も加えた検証・総括とそれを踏まえた対策の方向性を協議する場の設置を求める要請を行った。行政には引き続き医療資源の不足を回避する最大限の努力が求められる。
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