健康保険証を2024年秋に廃止し、保険資格の確認方法をマイナンバーカードに一本化する。河野太郎デジタル大臣がそう表明し、多くの不安と反発を呼んでいる。
マイナカードを常に持ち歩くことになり、紛失や盗難のリスクが高まる。再発行に時間がかかり、受診や身分証明に困る。任意のはずのカード保有を実質的に義務付けるのはおかしい。個人情報の把握を拡大して、国家権力が監視に使うのではないか……。
もっともな懸念である。
カード発行は顔写真が必須で、入院中や施設入所、ひきこもりの人を含めて全員に発行できるのか、システムに不具合が生じたら資格確認できず、全国で診療が止まりかねないといった問題もある。
すでに行政は、本人がマイナカードを取得するかどうかに関係なく、個人番号を使って、他の行政機関が保有する個人情報を照会している。
では何のためにカードを普及させたいのか。政府は利便ばかり強調するから、かえって不信感が高まる。
保険証廃止の目的は、カードの普及そのものではなく、「医療DX」という政策。診療内容を含めて医療情報を共有できる体制の構築にある。
その柱は、①診療・保健・介護の情報を医療機関・薬局・介護事業者・自治体でやりとり可能にする②電子カルテの標準化③診療報酬改定時のレセコン修正の迅速化。データは医療の動向分析や医学研究にも利用しやすくする。
自民党政調会が5月17日に提言をまとめ、6月7日に「経済財政運営と改革の基本方針」の一部として閣議決定された。9月22日に厚労省の推進チームが発足。10月12日には岸田首相を本部長とする内閣の推進本部の初会合が開かれた。
すでに昨年10月から、カード利用に同意した患者の保険資格確認、薬剤情報・特定健診結果の閲覧が、医療機関と薬局で可能になった。
今年9月11日からはレセプトをもとに過去の受診歴、主な診療行為も閲覧できるようになった。患者本人もマイナポータルのサイトを通じて自分の記録を入手できる。
これをカルテ、診断書、主治医意見書、予防接種、感染症認定、介護レセプト、ケアプラン、ADL、難病認定などにも広げる構想だ(障害関係は入っていない)。
不安は募る。とはいえ、妄想的に疑念を膨らませてデジタル化を全否定する主張はいただけない。利便性・効率化と、安全性・個人の人権を両立させる方策が重要だろう。
診療内容はデリケートな要配慮個人情報。カルテには精神状態、生育歴、家族関係なども記載する。マイナンバー法の対象である社会保障の範囲を超え、切り離して扱うべきではないか。
台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン氏はデジタル民主主義の条件として、公開、市民参加、説明責任、誰かを忘れていないか探すことの4つを挙げている。
行政が何をしているのか透明化する、自分のデータに誰がアクセスしたのか伝える、弱い立場の人をサポートするといった手だてが肝心になってくる。
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