電力の安定供給と脱炭素を御旗に、国による原発の新増設、次世代型原発の開発、実用化、また運転期間原則40年を最長60年に変更する動きが活発化している。
ロシアのウクライナ侵攻後、電力・ガス供給と価格高騰の不安から、世界各国で原発への傾斜が進んでいる。この潮流を受け、岸田政権も危機克服のため、あらゆる施策を総動員するとして、年末までに具体策を講じると言及した。
さらには経済産業省が、発電所の新規の建設を促すために支援策を導入する方針を審議会に提案。脱炭素に対応した発電所を電力会社が設置する場合に、複数年にわたる収入を保証するもので、支援に必要なお金は電気の小売会社などから集める想定だ。電気料金への上乗せは必定であろうから、電気利用者が下支えする仕組みとなる。燃やしてもCO2を出さない水素やアンモニウムを使った火力発電が主な支援対象になりそうだが、原発も発電時にCO2を出さない電源として、広く消費者が原発建設を下支えする制度となる可能性もある。
しかし、本当に原発は「CO2を出さない」「クリーン」な電源なのだろうか。
電力会社が発表している各種電源別のライフサイクルCO2排出量でも、原発は再生可能エネルギーと同程度しか排出しないとされている。この主張は電力中央研究所の論文で出されている値が引用されているが、使用済核燃料を国内再処理し、取り出したプルトニウムでMOX燃料を製造して1回使用するという、実現していないケースを想定した計算である。また、ウランの採掘・精錬、転換、濃縮、再転換、成形加工、再処理等々の各工程で一切のロスが出ない前提で行われているとの指摘もある。ロスなくプルトニウムを取り出せるなどという前提は机上の空論だ。何より使用済核燃料や廃棄物など、避けては通れない「負の遺産」の検討も十分ではなく、他の電源と比較して抱えるリスクは膨大である。この電源が「クリーン」であるなどと到底言えるものではない。
2011年3月11日、福島第一原発事故後に政府が発出した「原子力緊急事態宣言」はまだ継続している。8月30日には、強制避難区域だった一部地域で避難指示が解除された。しかし一方で、11年7カ月経過した今も7市町村で立ち入りが厳しく制限された区域が残る。
事故は人々の故郷を奪い、生業を奪い、生命を奪った。これまでも深甚な被害は語られてきたが、国はこの重い事実を今一度、認識すべきである。
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