協会は10月1日、京都外科医会と共催で、外科診療内容向上会をウェブ併用で開催した。京都外科医会副会長の古家敬三氏が進行し、33人が参加した。協会の曽我部俊介理事から情報提供の後、外科医会例会の症例検討会が行われた。向上会では、のはらクリニック院長の野原丈裕氏を座長に、京都府立医科大学内分泌・乳腺外科学教授の直居靖人氏の特別講演「新時代の乳がん診療と研究について」が行われた。
レポート 野原 丈裕(西京)
直居靖人氏は京都市伏見区出身で、1999年に大阪大学卒業後、同大の乳腺内分泌外科で要職を務め、22年1月に京都府立医科大学の内分泌・乳腺外科学の教授に就任されました。今回は最新の乳がん治療と研究の講演でした。
前半は手術治療の話でした。乳房温存手術では腫瘤を含め乳腺を部分切除した後に切除部の欠損を補うため、周囲の乳腺を縫縮して補填します。ただ、この方法では乳腺の引き連れを来し、変形を起こすこともあるため、切除部から距離をおいた別部位の脂肪を切除し乳腺全体を移動して補填するrotation flap法の紹介がありました。rotation flap法では乳房外縁の切開線はやや長くなりますが、引き連れや変形が少ないことを術後の写真で提示されました。
また、早期乳がんの際に腋窩リンパ節郭清を省略するために術中にセンチネルリンパ節生検を行いますが、病理医の負担を減らすため、センチネルリンパ節の転移の有無をPCR法で判定するOSNA法を紹介されました。さらに手術の際に血管を切離し、結紮を行う代わりに超音波凝固にジュール熱を加えたデバイスを用いて手術時間の短縮も試みておられました。医局員に女性も多いため、拘束時間の軽減も含めた働き方の工夫も紹介されていました。
後半はメインテーマの遺伝子診断法と臨床応用についての話でした。乳がん全体の約半数を占める「ER陽性・HER―2陰性・リンパ節転移陰性」のサブタイプ乳がんは予後が比較的良好なことから術後化学療法の適応を決めることが難しく、再発予後予測が重要となります。欧米で開発された既存の遺伝子診断法では、リスク分類が低・中間・高の三つに分かれ、先のサブタイプ乳がんは中間リスクになることが多く、化学療法を行うのが適当なのか判然としないケースが多くあります。そこでCurebestR95GCという新しい乳がん再発予測法を開発し、95個の遺伝子の発現レベルの違いにより、低・高リスクの2分化を行い、高リスクの場合に化学療法を考慮する方法を紹介されました。全国120施設で臨床応用され、症例の集積を行い保険適用を目指すとのことでした。
乳がんは年間9万人の女性が罹患し、この20年間で約3倍に増加しており、約10人に1人の割合で罹患するというデータがあります。年間4万人の方が亡くなっており、検診も含めた早期発見とともに個々に対する適切な治療選択が重要であると思われました。