鈍考急考33 原 昌平(ジャーナリスト) 不便、不親切、スローモー  PDF

 世の中はどんどん便利になっていると思っていたけれど、勘違いだった。
 かえって不便になった面もあるし、不親切、スローモーなことが多すぎる。
 筆者は現在、行政書士とソーシャルワーカーを兼ねた事務所で、相続、死後事務、生活支援、事業者支援などの依頼を受けている。
 ややこしいことを引き受けるわけだから、当然ではあるものの、必要以上に手間のかかる手続きが多い。
 とくに金融機関。メガバンク3行は、窓口の職員を減らし、いろいろな手続きに来店予約を求めている。支店も統合されたから、よけいに混む。予約できるのが2週間先になることもある。かといって予約なしで出向くと1~2時間も待たされたりする。
 困るなあとぼやくと、窓口の女性は、こう言った。
 「このごろは開店前から並ぶ方もおられます」
 ええっ、行列のできる金融機関? それって取り付け騒ぎの風景じゃないの?
 やっと順番が来て、口座の取引履歴を求めると、結果が届くまで2~3週間かかる。窓口の端末でデータは職員に見えているのだが、書類を事務センターへ送り、そこで処理して送付されるからだ。遠方の金融機関だと、その前に申請用紙を郵送してもらうのに1週間。
 信用情報、上場株、生命保険は専門の機関へ一括照会できるが、預貯金の有無は、金融機関ごとに個別に問い合わせないとわからない。
 相続手続きの書類は金融機関ごとにまちまち。支店に提出するのか相続センターへ郵送するのかもまちまち。ゆうちょ銀行の場合は、書類を取り次ぐ郵便局へ最低2回は出向かないといけない。
 通帳の再発行、住所変更、口座の解約などは、本人が窓口へ来ないとダメだと言う金融機関が多い。本人は施設入所あるいは入院中だと伝えると、「後見人の方を」。
 いや、判断能力はあるから後見の対象じゃない。身体が不自由な人もいるし、コロナで外出はままならない。意思確認ならテレビ電話はどうか、それも無理なら銀行の方が施設へ来てもらえませんかと頼んでも応じない。それって障害者差別ではないか。
 行政も民間も手続きはまだ書類が多い。戸籍や住民票は遠方なら郵便で取り寄せる。市町村への手数料はゆうちょ銀行の定額小為替を同封する。明治時代みたい。小為替の発行料金は今年、1枚200円に倍増した(額面50円でも発行料200円)。
 日本郵便は昨年10月、土曜の普通郵便の配達をやめた。配達が週6日から5日に減ったら、世の中の業務のテンポは相当に間延びする。
 コールセンターも困る。なかなかつながらない。音声案内で番号を選ぶと、次の番号の選択。間違えたらやり直し。応対するスタッフは外部委託で要領を得ないこともある。直接やりとりしたくても、代表番号さえネットに載せていない大企業が増えた。
 自分がよく接する範囲だけでも、愚痴と文句を書き連ねるうちに、得心がいった。日本の経済・社会が低迷しているのは、むべなるかな。

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